フェリックス・デュフール=ラペリエールとの対話 

2026年1月28日
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聞き手
金子勲矩
関口和希
ひらのりょう
ホワイト健

2025年9月24日、オタワ国際アニメーション映画祭の開催に合わせ、「NeW NeW」公募枠作家3名がケベック出身のカナダ人アニメーション作家フェリックス・デュフール=ラペリエールさんにインタビューを行いました。同映画祭にて最優秀賞を受賞した新作長編『Death Does Not Exist(死は存在しない)』制作の裏側や、ケベックの独立運動がテーマとなるストーリーの背景について迫ります。

質問:『Death Does Not Exist』の制作体制についてお聞かせください。

フェリックス・デュフール=ラペリエール(以下、フェリックス):『Death Does Not Exist』は、小規模なチームで約1年半の期間で完成させました。メインアニメーターが3〜4名、アシスタントが4〜5名、それに加えて背景に2名とアシスタントに1名という構成です。各ショットの色決定をすべて自分で行ったこともあり、コンポジット作業は非常に大変でした。
各部門にチーフを設ける、といった縦割りの階層は立てず、フラットな役割分担を基本にしました。少人数のメインアニメーターに加えてアシスタントが部分的に作業を兼任するなど、柔軟に制作に取り組んでいます。

また、作品ごとに新たに人員を集めるのではなく、制作の終盤からじわじわと次作の立ち上げに移行していくことで、人材の継続性も確保しています。今回も『Death Does Not Exist』の終盤から次の企画に取り組み始めることで、空白期間が発生しないようにしました。

質問:制作資金はどのように確保していたのでしょうか。

フェリックス:カナダ(ケベック)では、国・地域の公的な映画制作支援は比較的多いものの、アニメーション専用の枠組みはなく、実写映画と同じ「フィクション作品」として審査されます。提出企画の採択率はおおむね8〜10%で、良いビジネスプランとは言い難いのが正直なところです。
加えて、税額控除が予算の約25%を占めますが、適用には法人登録などの事務手続きが必要です。私たちはそれをクリアするために小さなスタジオを立ち上げ、そこから徐々に拡張してきました。

戦略としては、映画祭での成功直後など作品がまだ人々の記憶に新しいタイミングで次の企画を助成機関に申請します。ケベックの制度下では、「1本を監督しながら次作の脚本を書く」というこの連続的な制作体制が有効に機能します。それに加え、同時に1〜2件の企画を提出して、万が一どちらかが通らない場合のリスクに備えることもあります。

なお、リスクを承知の上で制作を前倒しにすることもあります。『Death Does Not Exist』の場合も、受けられる助成金の規模が確定する前に既に5〜7人ほどで静かに制作をスタートさせていました。自費でビデオコンテに時間をかけ、資金が確定した段階で予算から事前の出費を差し引く形でつじつまを合わせています。スタジオという器があると、全面的に企画が固まる前から走りだせるのは利点ですね。

質問:コンテ制作やコンポジット、劇伴など具体的な要素について、どのような工夫をしていますか?

フェリックス:作画と撮影の設計段階では非常に細かいビデオコンテを作りました。全体の約25%はレイアウトとしてそのまま機能する精度で、メイン・アニメーターと1年半ほどかけて組み上げています。

技術面では、2Dの図形を3D空間内で動かしても常にカメラが正面を保つような実装を行いました。つまり、カメラが3D空間を移動しても描線が常に平面のまま映るような制御ですね。テクスチャについても社内で簡単なツールを作り、After Effects上で独自のカラーパレットを流用できる仕組みを設けました。

コンポジット面については各ショットの色彩テーマを私が決め、After Effectsに40~60程度のレイヤーを持ち込み、自作のカラーツールでフレーム内の領域から色彩を抽出し、別領域へ適用する方法をとりました。「木の幹=茶色」のような現実に順じた仕上げは避け、場面の雰囲気を優先するアプローチです。結果としてコンポジット量は膨大になったので、今後の作品についてはなるべくコンポジット量が少なくなるようにしようと思います(笑)。

音楽については、ダンスやパーティの場面では、ファンクのグルーヴを軸にしました。私の兄が音楽家で、バンドを想定した質感に寄せてくれています。歌う、というコンセプトについては興味があり、次回作のテーマに活用しようとも考えています。

質問:本作はケベックの独立運動がモチーフとなっていますが、そうした歴史とはどのように向き合い、どのように表現したのでしょうか?

フェリックス:本作の背景には、1970年にケベック解放戦線がイギリスの外交官とケベック州の副知事を拉致したことに端を発する「オクトーバー・クライシス」という事件があります。このときカナダの連邦政府は歴史上初めて戦時措置法を発動させ、多数の独立運動家を逮捕しました。「オクトーバー・クライシス」はケベック人のなかで、連邦政府がケベックの独立運動を強引に抑えこんだ出来事として集合的に記憶されています。私は本作を通し、当時の人々の精神を現代へ引き寄せた上で、自分自身が抱える矛盾(政治的な信条と、支える家族のいる芸術家としての現実)にも向き合いたいと考えました。格差の拡大といった現在進行形で深刻化している問題も、ただのモチーフに留まらない“いま・ここ”の現実として映画の根底にあります。

それを画面に起こすにあたり、表現上の「抽象化」という点についても強く意識しました。登場人物たちの急進的な信念と行為の過激さに呼応し、現実を抽象的な色や形状へ還元する、という描き方を通して、「現実のある側面を見えなくなることで、別の側面が顕わになる」という表現を試みました。具体的には、人物と背景を同一の色相で統一し、風景の動きと人物の動きとが溶け合うような設計をしています。映画全体を通して、色彩表現から人物と風景との関係性が浮上してくる、という構図です。

質問:フェリックスさんが影響を受けたものはありますか?

昔からあらゆるアニメーション作品を熱狂的に観ていました。短編映画祭などには若い頃から足繁く通っています。作家でいえば、第一にヤン・シュヴァイクマイエルですね。それからジャンルイジ・トッカフォンド。それからもちろん今敏も外せません。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』なども大好きですね。日本人でいえば、山村浩二の抽象表現も気に入っています。『カフカ 田舎医者』におけるカフカ解釈には驚かされました。実写ではクリス・マルケルの『サン・ソレイユ』などのドキュメンタリー映画もよく観ます。

また、学生の頃は宇宙物理学の研究者になりたかったので、物理学を学んでいました。途中で考え直して映画学校に編入しましたが。今もときどきアニメーションと違って答えがはっきりしている数学が恋しくなることはありますね(笑)。

質問:次回作のコンセプトや制作方法について

フェリックス:次作は現代のモントリオールが舞台で、アナログ撮影のアニメーションになる予定です。デジタル作画による線を補助として参照しつつ、木炭で絵を描いて撮影後に合成する形ですね。スタッフは最大で20名程度の規模を考えており、まず1分半から2分程度のティザー映像を仕上げます。企画開発用の助成金がたくさん降りたので、一部を制作予算に当てつつ残りの予算も確保していく予定です。

フェリックス氏のスタジオ「Embsucade Films」にて


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