第一期公募枠アーティスト・関口和希インタビュー
- 取材
- 田中大裕
- 構成
- 野村崇明

まず経歴についてお聞きかせください。関口さんは多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コースのご出身ですが、同じ多摩美術大学には、多くのアニメーション作家を輩出しているグラフィックデザイン学科があります。なぜ、グラフィックデザイン学科ではなく情報デザイン学科を選ばれたのでしょうか。
関口和希(以下関口) 小学生のころからずっと絵を描いていましたし、高校時代は東京都立工芸高等学校で金属工芸を専攻していたので、大学も芸術系に進学したいと思っていました。ただ当時は具体的に何を目指すのかを決めていなかったので、情報デザイン学科の持つ良い意味で何をやってもよさそうな雰囲気を魅力的に感じました。
進学後にアニメーションの道に進もうと思ったのは、水江未来先生の授業がきっかけです。水江先生の授業ではメタモルフォーゼをテーマに、秒間24コマの手書きフルアニメーションを制作していました。それが私の初めてのアニメーション制作だったのですが、その作業がとても面白く、また講評では水江先生にとても褒めていただいたので、大きな自信になりました
加えて、アニメーションは私のやりたいこととも合致していました。小さいころからストーリー性のある作品を作りたいと思っていて、絵本やマンガに興味を持っていたのですが、コマ割りを難しいと感じていたのと、人間のキャラクターを描かない作風がマンガには向いていないように感じられました。その点アニメーションは一つのフレームで展開していきますし、動物がメインでもいい。アニメーションは私にとっておあつらえ向きのメディアでした。
大学時代の先生や同期にはどういった方がいましたか。
関口 水江先生は手描きアニメを制作されていますが、他はVJやモーショングラフィックス系の人が多かったですね。原田大三郎先生にはとてもお世話になりましたし、同期には持田寛太さんやでんすけ28号さんがいました。
大学卒業後は東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の山村浩二ゼミに進学されています。山村ゼミを選んだ理由を教えてください。
関口 水江先生に勧めていただいたというのが一番の理由です。平面作品を作りたいと思っていたので、「平面アニメーション領域」というゼミ名にも惹かれました。ゼミでは山村さんに企画の相談をしたり、制作途中の映像を見せてアドバイスをいただいたりすることが多かったのですが、私は主に脚本や物語面で助言をいただいていました。
大学院時代の同期にはどういった方がいましたか。
関口 見里朝希さんや福地明乃さんといった、今では第一線で活躍している人たちが在籍していました。大学院時代は課題で忙しく、同期といるよりも家で作業をしている時間の方が長かったのですが、それでも彼らと立体の授業でグループ制作をした思い出や、タイのアニメーションワークショップに参加して現地の学生たちと交流した思い出は心に残っています。
大学院終了後から現在に至るまでは、どういった活動をされているのでしょうか。
関口 大学院を出た後はフリーランスとしてアニメーションを制作しています。テレビ東京の「シナぷしゅ」やNHK Eテレなどのクライアントワークをこなしつつ、仕事の合間に自主制作を行っています。クライアントワークは自分の絵柄や作風を抑えないといけない部分もあるので、そのフラストレーションを自主制作にぶつけています。
ご自身の作品の中で、作家としての転機となった作品を教えてください。
関口 多摩美術大学の卒業制作として作った『ミヨの半生』(2015)です。それまでは授業で与えられた課題に沿って作品を作っていたのですが、この作品では初めて、自分の表現したいパーソナルな事柄を作品にすることができました。映画祭にコンペインしたのもこの作品が最初です。
ご自身の中で最も手応えを感じている作品は?
関口 作品を作り終えた後はいつも反省点ばかりを考えてしまうので、完全に納得がいっている作品というのはまだないですね。強いて言えば、東京藝術大学大学院の一年次制作『死ぬほどつまらない映画』(2016)は、新千歳空港国際アニメーション映画祭で日本グランプリを受賞したりと、映画祭で高く評価していただいたという意味で手応えがあります。
次に作品についてお聞きします。まず制作のプロセスを教えてください。
関口 作品を作るうえで足掛かりとしているのは、実生活での悩みです。その時々の悩みがキャラクターにダイレクトに反映されています。悩みというのは対人関係や環境の中から生まれてくるものなので、キャラクターの悩みについて考えていくと、そのキャラクターを悩ませているトラウマや人物、彼らを取り巻く環境も自ずと立ち上がってきます。
物語を考えるときは頭から終わりまでストレートに書くのではなく、個別のエピソードをバラバラに考えています。それらを後から整序したり削ったりするのですが、何度も寝かしては書き直すことで、なんとか一つの物語にまとめ上げています。
物語が出来上がったらテキストに書き起こし、それをもとに絵コンテを作ります。テキストの段階では「悩み」について真面目一辺倒に考えてしまっているのですが、絵コンテにするときに様々な飛躍や新しいアイディアが出てくるので、ここで作品の全体像が決まりますね。画面構成なども絵コンテの段階で大体決まります。
作品のテーマは私がその時々で本気で悩んでいるパーソナルな事柄ですが、作品を観た人に何かを感じてほしいと思っているので、私的な悩みを客観的なものへと昇華し、普遍化して描くように心がけています。
関口さんの作品の大きな魅力である、キャラクターデザインについてもお聞かせください。
関口 キャラクターの顔は基本的に楕円形になっていて、そこにどういう耳をつけるかで個性を描き分けています。三角の耳をつければネコになるし、長い耳をつければウサギになるといった具合ですね。キャラクターの色彩については、私の描く背景は灰色が多くなりがちなので、その中に埋もれないように派手で明るい色彩を選択しています。
『性格変更スクール』(2018)までは各キャラクターの見た目について特に理由付けをしていなかったのですが、この作品を韓国のIndie-Anifestという映画祭で上映していただいた際に、観客の方から「キツネには人をだます悪いイメージがあるのに、なぜこのキャラクターをキツネにしたのか」と聞かれてしまったんですね。それ以来、キャラクターデザインに必然性を持たせるようにしています。例えば今制作している新作『アニメーション作家のねこちゃん(仮)』は嫉妬をテーマにしているので、七つの大罪で嫉妬を象徴する動物である猫を選択したりしています。
関口さんの作品のキャラクターは、声の演技も大変魅力的です。声優にはどのように演技指導されているのでしょうか。
関口 例えば『死ぬほどつまらない映画』では劇団ひまわりの子役の方に出演していただいています。声優っぽい作ったようなイントネーションをつけずに、ナチュラルなしゃべり方をするようお願いしました。いずれにせよ事前にあれこれと指示をするよりも、一回演じていただいたうえで、こちらの希望を伝え、すり合わせるというやり方が自分の性に合っていると感じます。
制作に用いているツールについても教えてください。
関口 アニメーション映像はTVPaint AnimationとAfter Effectsを、背景はCLIP STUDIO PAINTとPhotoshopなどを使っています。作画は『死ぬほどつまらない映画』以降はTVPaint Animationを、それ以前はPhotoshopを使っています。
ただ、今はアナログ作画を試しているところです。主線は鉛筆かペンで書いて、あとはアクリルガッシュを使おうと思っています。
関口さんはクライアントワークも数多く手がけていらっしゃいます。クライアントワークを手掛けるようになったきっかけを教えてください。
関口 大学二年生の時に株式会社ロボットで作画のアルバイトをしていたのですが、その際に携わった仕事をホームページに載せたところ、依頼をいただけるようになりました。最近だと「しまじろうのわお!」シリーズの『ムカンシンイカンイカンマン』(2021)やNHK Eテレ「みいつけた!」シリーズの『わーわーわー〜はじめてのウソ〜』(2021)を観て仕事を振ってくださる方が多いですね。
影響を受けた作家や作品についても教えてください。
関口 マンガ家の福満しげゆきから影響を受けています。彼の私生活をすべてさらけ出していくスタイルは、安易に真似るには怖いところがありますが、それでも心惹かれます。またアニメーションを作り始めたばかりのころは、Vimeoでロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下RCA)の学生作品などを観漁って参考にしていました。当時観ていたものの中で特に印象に残っているのはEamonn O’Neill『I’M FINE THANKS』(2011)や、RCAの作品ではありませんがNatalia Chernysheva『Le retour』(2012)などですね。また山村浩二さんの、常に新作を作り続ける姿勢は作家として見習いたいと思っています。Felix Colgraveの、制作資金をクラウドファンディングで集め、映像から音楽まですべてを一人で作るスタイルにも憧れがあります。
関口さんは作品制作と並行して育児もされていますが、この二つをどのようにして両立しているのでしょうか。
関口 子供が保育園に行き始めてだいぶ楽にはなりましたが、それでも時間が限られているので、メリハリをつけて制作するようにしています。具体的には10時から15時半頃までを仕事の時間として、それ以外は子供の送り迎えや家事などに当てています。あとは寝る前の1時間ぐらいで、その日の仕事のふり返りもしていますね。それから「NeW NeW」に採択していただいたことで海外の方とコミュニケーションを取る機会が増えたため、今は22時から24時頃まで英語の勉強もしています。
最後に現在企画開発中の新作についても教えてください。
関口 これまではずっと一人で作ってきたので、新作では多くの人とかかわりながら制作をしたいと思っています。今は新作『アニメーション作家のねこちゃん(仮)』の脚本を執筆中なのですが、第三者に助言をいただきながら作っています。また、同じく「NeW NeW」の採択作家であるひらのりょうさんや金子勲矩さんの制作脚本や改稿の過程などを見せていただくことで、参考にさせていただいています。