シュペラ・チャデシュとの対話 

2026年3月13日
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聞き手
大前奨平
工藤雅
榊原澄人
金子勲矩
関口和希
ひらのりょう
ニューディアー

2025年11月27日、NeW NeW第1期・第2期の公募作家たちが、新千歳空港国際アニメーション映画祭の審査員として来日したシュペラ・チャデシュさんにインタビューを行いました。リュブリャナにあるフィンタ・スタジオの共同設立者であり、主にマルチプレーンの切り絵アニメーションで知られる同監督の、創作の秘密からスタジオ経営の葛藤まで幅広く伺いました。

質問子供の頃に好きだったアニメーションはありますか?  アニメーション作家になったきっかけはなんですか?

シュペラ・チャデシュ(以下、シュペラ私はユーゴスラビア時代に育ちました。ですから、ディズニー作品などは身近にありませんでした。当時はロシアとも対立していましたから、ロシアのアニメーションも放送されていませんでしたね。実際に見ることができたのは、ハンガリーやポーランド、チェコ、そしてザグレブ派のアニメーション(現クロアチア)映画だけでした。当時は吹き替え版もありませんでしたから、子供の頃は、チェコ語やポーランド語など、いろいろな言語の単語を少しずつ覚えたものです。今でも、大好きだったポーランドのアニメに出てくる単語をいくつか言うことができますよ。

それから、テレビ中毒と言ってもいいくらい、テレビが大好きでした。12歳くらいの時にユーゴスラビアが崩壊し、実は国全体で何年もの間、イギリスの有料テレビ放送などを無料で視聴していた時期があったのです。これはイギリスの方には内緒にしておいてくださいね(笑)。「ついにアメリカやイギリスの作品が見られる!」と、私にとっては、それが一つの解放のように感じたのです。

質問:あなたの映画のいくつかは原作小説に基づいていますね。どのようにダイアローグや物語を決めていますか?

シュペラ:私の最初の映画『Boles』(2014年)はマクシム・ゴーリキーの短編小説がベースになっています。この作品を作って学んだことでもありますが、文学と映画には異なる部分があり、素晴らしい本が必ずしも素晴らしい映画になるとは限りません。読む方がより強く心に響くものもあります。

セリフを書くというのも、非常に難しいことだと思います。『Boles』以来、私はパートナーである夫と一緒に仕事をしています。彼は俳優としても活動していて、私のすべての作品で脚本を担当してくれています。物語は一緒に作って、テキストとして落とし込んでくれます。コラボレーションは簡単ではないですね。私たちは日常的に、「夕飯は何にするか」や「どっちが生活費を払うか」といった戦いをしているわけですから(笑)。そんな生活の合間に、「ねえ、ダイアログを書かなくちゃ」と話すのです。彼は、公私共に大きな存在ですね。

質問: 最初のアイデアやテーマはどこからやってきますか? また、リサーチはされますか?

シュペラ: たいていは、人生の中で私を悩ませていることがある時ですね。例えば、身近に虐待的な関係やアルコール依存症に苦しむ人がいたりだとか。語ることが非常に困難だからこそ、その主題の周辺に物語を見つけようとするのが私のアプローチです。

私にとって本当に重要だと分かる大きな主題がまずあり、そこから自分の人生経験や、自分の目を通したリサーチを経て進んでいくのです。自分からリサーチするというよりは、たいていはテーマの方から私のところへやってくる、という感覚でしょうか。

夫とも多くの出来事や経験を共有し、実際の作業も一緒にしています。私たちは日常生活や日々の観察を通して、まわりにあるたくさんの物語に目を向けています。私たちのまわりにある物語こそ、とても力強いんです。ただ、それらをどうやってまとめるか、特に短編映画の尺は限られていますので、その時間に収まる物語を見つけ出すことが重要になります。夫は物語を見つけるのがとても上手ですし、それらを一つの映画として組み合わせる役割も担っています。アイデアを練る段階で、誰か一緒にいてくれる人がいるのはとても良いことですよ。

質問:「なぜ私はこれをアニメーションで作るのか?」と自問することはありますか?

シュペラ:毎日自問しています。私の先生の一人が、いつもこう言っていました。「なぜアニメーションをやっているんだ? 自分自身に答えてみろ。もっと早く語れる方法があるのに、なぜフレーム単位で自分を痛めつけるようなことをしているんだ?」と。 自分自身に「なぜ私は……」と問いかけ続けるのは常に正しいことだと思います。

ただ、ある時点からは、そうした問いを一旦脇に置いておくことも大切です。映画がどうなるか、観客がどう反応するか、賞を取れるかといった「期待」も同様です。そうした「荷物」はスタジオの外に置いて、ただ仕事に集中するのです。

もしあなたが誠実に制作に向き合い、本当に伝えたいテーマを取り上げているなら、それが「語られるべきだから」とか「人気があるから」といった理由ではなく、あなた自身の中から湧き出たものなら、間違いが起きることはありません。私たちは一人ひとりユニークな個性を持っていますから、自分の内側にあるものを真摯に取り上げれば、それは唯一無二のものになります。その「正直さ」を貫くのが、時として難しいのですけれどね。

成功へのレシピを見つけるのは本当に難しいことです。おそらく、そんなものは存在しないのでしょう。非常に多くの要素が組み合わさるのですから。観客の皆さんがそのテーマを受け入れる準備ができているか、社会的なタイミングも関係しています。時として、社会で語られる必要性が非常に高いテーマというものがあり、そうした映画は他の作品よりも多く上映されたりするものです。

質問: 撮影にはデジタルカメラをお使いですか? もしかしてフィルムで撮影していますか?

シュペラ:さすがに私はそこまでの化石ではありませんよ(笑)。 アニメーション制作で皆さんが使っているような、暗所に強いセンサーを搭載したカメラです。私の映画は、ご覧の通り非常に画面が暗くなることがありますので、チップが暗い部分をどう処理するかというのは常に課題です。

ただ、レンズはとても古いものを使っています。ニコンのレンズですね。オートフォーカス機能がついていない古いモデルを、わざわざアダプターを使って装着しています。 オート機能があると——今は少し改善されたかもしれませんが——、設定上はマニュアルにしていても、カメラが「賢いふり」をしようとしてしまうのです。例えば勝手にシャープネスを調整しようとしたり。そんなのコマ撮りには不要です。ですから、キヤノンのデジタルカメラで非常に古い光学レンズを使う、という組み合わせにしています。

ドラゴンフレームは本当に素晴らしいですね。プレビューで動きを確認できますから。カメラが捉えているものは、私たちの目で見えるものとは全く違いますから、モニターを確認しながら撮影していく必要があります。

こんな便利なソフトがなかったフィルムの時代、いったいどうやって撮影をしていたのか、私には想像もつきません。ちょうど先日、映画館でロッテ・ライニガーの最初の長編映画『アクメッド王子の冒険』を観たのですが、1926年にデジタルなしであれをやり遂げたというのは、本当に驚異的です。心から尊敬します。

私にとっては、デジタルとアナログの組み合わせが今でも非常に重要です。 時々、コンピューターで動きのシミュレーションを作って、ストップモーションの作業をしやすくすることもあります。ソフトウェアもハードウェアも、知っている限りのものを活用しています。

質問:あなたはスタジオをつくり(Finta Studiom)、10年以上、同じメンバーとチームで働いていらっしゃいますね。どのようにマネジメントされているのでしょうか?

シュペラ:私が料理上手なのがポイントです(笑)。 それは冗談ですが、スタジオの雰囲気がいつも良いことは確かだと思います。私は、アーティスト全員がプロジェクトに最善の力を発揮できるよう、過剰にコントロールしようとはせず、制作に没頭できる「余白」を与えようと努めるタイプなのです。

それは時に難しいこともありますが、それでも、みながクリエイティブであることは非常に重要だと考えています。自分自身のアートワークやアイデア、ストーリーテリングの提案を作品に盛り込めるようにすることで、アーティストたちが自分が映画や物語の一部であると感じられるようにする。みながスタジオに残ってくれる大きな要因の一つだと思います。 

あとは、現場が本当に張り詰めたときに必要なのは、やっぱり美味しい食べ物ですね。これは本当の話ですよ。『Steakhouse』(2021年)の制作中、あるフランス人のアニメーターが2週間スタジオに来てくれたのですが、航空会社が倒産してしまって帰りのフライトがキャンセルになり、彼女は結局1ヶ月間滞在することになりました。彼女は「もうこのまま残るわ。ヨーロッパ中のいろいろなスタジオで働いてきたけれど、ここほど雰囲気が良いところはなかった」と言ってくれました。 私は毎日、彼女たちのためにランチを用意していたんですよ。食事はいつだって素晴らしいものですし、安らぎになりますから。

私たちのチームは女性が中心です。 今は男性も一人いますが、プロデューサーも女性です。彼女とはもともと一緒に学んでいた友人同士で、スタジオの立ち上げも、会社としての基盤づくりも手伝ってくれました。今ではハンガリー、オーストリア、セルビアなどとの5つのプロジェクトを同時に動かしていて、非常に有能で心強い存在です。

質問:お子さんがいらっしゃるそうですが、子育てと作品づくりの両立をするモチベーションはどのように保っていたのでしょうか。

シュペラ:『Steakhouse』が完成してから、ずいぶんと長い休みがありました。なかなか新しいことを始められませんでしたし、他にもやらなければならないことがたくさんありました。何をするか考えることも、新しいプロジェクトに向けて自分を奮い立たせることも、とても難しい時期でした。

ですが今は、制作資金(助成金)を得られたこともあり、始めなければなりません。時として、そういったことが始める動機になることもあるのです。一度始めてしまえば、「物語やイメージを膨らませたい」という欲求が私の中に湧いてきて、どういうわけか自然と引き込まれていきます。

「さあ始めよう」と決心するまでが、いつだって一番難しいものです。だからこそ、モチベーションを見つけることは非常に重要です。自分自身に近いテーマを選ぶことが大切だ、と私が思うのはそのためです。それが、後になって自分を突き動かす推進力になりますから。もしそのテーマが、自分自身の内なる葛藤の一部であったり、自分の人生で起きている出来事であったりすれば……それは自分の心の中から取り出すものですから、エネルギーを感じやすいのです。でも、決して簡単なことではありません。なぜ私たちがこんなに大変なことをやっているのか、本当のところは誰も分かりませんよね(笑)。

子供は大きくなれば、少しずつ余裕が出てきて、きっと楽になります。スロベニアでは、就学前教育や学校のシステムが非常に整っています。少なくとも8時間は預けることができ、子供たちもそこでとても良い時間を過ごせます。

以前は朝から深夜まで働いていましたが、今は仕事を「切り上げる」ことを学びました。保育園が閉まってしまいますからね。以前とは違うライフスタイルですが、「時間は限られている」と分かっているからこそ、より速く、より集中して働く術を身につけることができます。子供が人生にもたらしてくれるのは、生活と仕事をしっかりと切り離せるようになることですね。

質問: スロベニアの出生率は 減っていますか? それとも増えていますか?

シュペラ:減っていますね。日本ほど深刻ではないかもしれませんが、やはり減少傾向にあります。 私たちがより懸念しているのは、多くの若者が自ら命を絶っていることです。現在、ヨーロッパでは自殺率がワースト1位ですし、世界でも3位くらいに入ってしまいます。

アルコール依存も非常に大きな問題になっているのだと思いますが、原因はそれだけではないと思います。特に若い世代にとっては、SNSと共に育つこと自体が大きな試練なのだと感じます。常に人の目に晒されているでしょう。昔は学校にいる時だけ気を張っていればよく、家に帰ればそこは安全な場所でした。でも今は、家も安全ではありません。チャットグループで常に繋がっていますから……本当に難しい時代です。 私も息子を育てていますが、そうした流れに吸い込まれないようにするのは、もはや不可能です。本当に、不可能なのです。

不幸の大きな要因は、目の前にあるキラキラしたイメージと自分自身とのギャップにあるのだと思います。 日本もそうでしょう? 期待値が高すぎるのかもしれませんね。

だから、映画を作る時は、そうした「期待」を締め出すように努めてみてください。ただ自分の仕事に向き合い、仕事に対して正直であること。プロデューサーは期待を持つかもしれませんが、それは彼らに任せておけばいいのですよ。

質問: NeW NeWではアーティストが作品のピッチをします。あなたにも経験はありますか?

シュペラ: 制作を始める前に映画についてプレゼンテーションをしなければならないというのは、今の時代ならではの新しい流れですよね。 私は、このプロセスに関してはいつも非常に無防備な気持ちになります。完成する前に人に見せるのは、あまり好きではありません。だって、「これでいいのか? 良くないのか? 十分なのか? 足りないのか?」という疑問だらけですから。 創作する時、私は常にたくさんの疑問を抱えています。ですから、実際に作業に入る前に見せなければならないというこの新しい挑戦は、私にとっては本当に難しいことなのです。

以前、クレルモン=フェランでピッチをしたことがあるのですが、その時は「二度とやるものか」と思ったものです(笑)。 でも、ピッチで話すことは、物語を明確にするのには最適です。多くを語りすぎず、観客の反応をテストするのです。ピッチの場にいる最初のお客様に物語を話してみて、「これは機能するか? フィードバックはあるか?」を確かめる。10分もあれば、自分のアートを十分に提示できます。実際、10分というのはかなり長い時間ですよね。

私はいつも実験映画を作りたいと思っているのですが、結局は物語のある映画を作ってしまうのですよね。なぜだか分かりませんが……今度はどうなるでしょうね。来月から新しい映画の制作を始めるところです。ぜひ楽しみにしていてください。

上段左から、榊原澄人、工藤雅、シュペラ・チャデシュ、大前奨平
下段左から、関口和希、金子勲矩、ひらのりょう

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