欧州ツアーレポート:関口和希
- 文
- 関口和希
2025年6月、第一期公募枠の採択者3名(金子勲矩、関口和希、ひらのりょう)が新作のプレゼンテーションを主な目的として、ヨーロッパツアーを行いました。この記事では、関口和希によるレポート記事をお届けします。
関口和希によるレポート
こんにちは、アニメーション作家の関口和希です。
今回は、約20日間にわたったNeW NeWのヨーロッパツアーについて書いていきます。
ツアー中はいろんなトラブルに見舞われて本当に過酷でしたが、それ以上にたくさんの素敵な出来事もあって、とても素晴らしい経験となりました。
無限に書けてしまいそうなのですが、特に印象的だったことをピックアップして書いていきます。長いですが、ぜひ最後までお付き合いください!
出発の日
出発当日の朝、飛行機がキャンセルになったとの連絡があり、いきなり出発が2日後になりました。
子供と過ごせる時間が延びたと呑気に思っていたら、その延びた2日の間に子供から病気を貰ってしまい、体調最悪でのスタートでした……。

なんとか朝4時に自宅を出て2時間かけて空港まで辿りつき、14時間のフライトに耐えました。
具合が悪い間、皆さんに荷物を持ってもらったり、薬を分けていただいたりしてありがたかったです。
私も具合の悪い人に優しくありたいと思いました。

フランスに到着するも、ザグレブ行きの飛行機への乗り換えが間に合わず、空港からタクシーで少し行ったところにあるホテルに急きょ一泊することになりました。

夕飯も食べずにすぐにベッドに入って寝たら体調が回復し、お腹も痛くなくなり、まともに歩けるようになりました。
ザグレブ国際アニメーション映画祭
お昼ぐらいにクロアチアにようやく到着しました。ホテルに荷物を置き、近くのカフェでランチした後、事務局で映画祭バッグやカタログをゲット。日焼け止めももらえました。



ザグレブはとにかく街に落書きが多かったです。でも別に治安が悪い感じはしなくて、いろんなところに絵を描くことが許されてる感じなのかな? と思いました。

翌日は公園で行われたアニメーション関係者が集まるピクニックに参加しました。灼熱でしたが、楽しく交流できました。タンバリンかな? と思うようなサイズの紙皿に注がれた豆の煮込みとパンが提供され、しょっぱかったです。

昼過ぎから韓国特集プログラムを見た後、近くのカフェで『あの星に君がいる』のハン・ジウォン監督にインタビュー。前作の『魔法が戻る日の海』がとても好きだったので、直接お話できて感激しました。
その翌日はMMセンターという会場にて、NeW NeWのプログラムで上映とプレゼンがありました。

上映では私の過去作『死ぬほどつまらない映画』も上映していただき笑いが起きたものの、プレゼンは緊張もあって原稿をただ読むだけになってしまい無笑の5分間に……。へこみましたが、この経験はのちにアヌシーでのピッチで活きることになります。

夕方には、ウェスティンホテルのロビーでオスマン・セルフォン監督にインタビュー。すごく気さくに話していただき嬉しかったです。ブラックコメディを作る中で、これはやっちゃいけないという倫理のラインはご自身の中に何か設定していますか? と質問しました。
夜は短編コンペ5と6を観に行きました。会場は噂通りクーラーがなくて暑かったですが、作品と作品の合間に短い音楽が流れて、それに合わせて全員で手拍子をする文化があって面白かったです。照明もお花でかわいかった!

最終日はミカエラ・パヴラートヴァ監督のマスタークラスを観た後、インタビューしました。マスタークラス直後でお疲れだったはずなのに、丁寧に質問に答えてくださり、さらに私に対して「子育てしながら作品を作っていて尊敬する」と仰ってくださりとても嬉しかったです。
その後はコンペを3本観たり、一人で街をぶらぶらしたり、夜はアワード上映を観たりしました。前日にプレゼンした会場ではカラオケパーティーが開かれていて、みんなYouTubeのカラオケ動画を流しながら深夜まで踊り狂っていました。
ザグレブ、大きすぎない規模でちょっと学園祭っぽい雰囲気もあり、温かくてかわいい映画祭だなと思いました。セレクションもとても面白くて、好きな作品にたくさん出会えました。特に短編コンペ5が個人的にグッとくるものが多かったです。

最後にザグレブの地面に自分のキャラを刻みつけてきました。
到着して1~2日は海外の土地に怯えていましたが、自力であちこち移動しているうちにだんだん慣れて楽しくなってきて、わからないことを英語で人に聞いたり、トラムにも一人で乗れるようになりました。小鴨のように皆に付いていくスタイルだとずっと心細いのですが「怖いことに自分で立ち向かうと楽しい」とわかりました。これは、今後の人生にも活かしていきたい教訓です。

アヌシー国際アニメーション映画祭
夜3時半にアヌシーに向けて出発。急いでパッキングして1時間だけ寝ようと思ったのですが起きられず、叩き起こされ、意識が朦朧とした状態でホテルを後にしました。

乗り換えの飛行機が遅延したりもしつつ、数カ国を経由し、夕方にはアヌシーに着きました。
泊まったホテルは上映会場までバスで30分の遠さでしたが、周辺には緑が多く、部屋も広くてキレイでした。

翌日、パスを受け取りに皆でル・パキエという場所へ。ツアー中、この瞬間が一番テンションが高かったかもしれません。あまりに美しい景色に「うわー!!」としか言えませんでした。

湖は水がキラキラで、泳ぐ鴨の両足が目視できるぐらい透き通っていて、遠くには雄大な山が見え、誰もが楽しそうにくつろいでいて天国のようでした。街全体が映画祭仕様になっていてとにかく規模がすごい!

夕方はアニメーション関係者が集まるピクニックへ。
自己紹介のポストカードを手に、目が合った人とどんどん会話しました。英語には自信がないものの、お互いに流暢ではない人同士だといくぶん気楽に話せることがわかりました。
ツアー中は他にもパーティーやピクニックの機会が度々ありましたが、映画祭のテンションだと、初めての人とも勢いで話せて楽しかったです。自分が自分じゃないみたい。

その翌日はEUレジデンスのピッチへ。皆さんのピッチが素晴らしくて感銘を受けるとともに、2日後の自分の発表への危機感が募りました。というわけでこの翌日は上映を観た後、芝生でピッチの練習をしました。
日本でChatGPTと一緒に考えてきた原稿は、現地コーディネーターの高山さんに「これじゃ絶対に伝わらない」とほぼ丸ごと直していただき、愛嬌や笑わせポイントがふんだんに盛り込まれたとてもいい原稿にしていただきました。
本当は「原稿を読む」ということ自体があまり良くないとのことで、確かに……と思ったのですが、原稿無しは現時点ではちょっとハードルが高すぎたので「なるべくフレンドリーに振る舞いつつ、元気に読む」ということを目標にしました。
ピッチ本番
そしてついに迎えたNeW NeWプログラムのピッチ本番。
朝9時からだったのもあってか客入りはそんなに多くはなかったものの、やはり緊張しました。
ドキドキしながら自分の番を待っていた時、突然、神の啓示のように「今は自分のことだけ考えていればいい」という考えが降りてきました。
そして、ChatGPTが教えてくれた「4秒かけて吸い、7秒止め、8秒かけて吐く」という呼吸法をしたらピタ……と手の震えが止まり、他の人のピッチや、いろんな心配ごとが全く気にならなくなりました。

多分、俳優さんとかもそういうゾーンに入って仕事しているんだろうなと思います。
ピッチは練習よりもずっと上手くできた実感がありました。何人かの方にピッチ良かったよ! と言ってもらえて嬉しかったです。
終わった後、映画祭公式のチルスポットで2時間ぐらい無になった後、他の人が絶賛していた『Arco』と、面白そうだなと思っていた『無名の人生』(どちらも長編コンペ)を観ました。
上映のチケットが事前にほぼ全く取れていなかったのですが、度々ページをリロードすると、意外と空きが出ていることが多くて、結果的にはたくさんのプログラムを観られて満足でした。
アヌシーでは上映前に「客席からお客さんが紙飛行機を飛ばし、上手く飛ばせたら会場から拍手が起きる」「口をポワッと鳴らす」という文化があって面白かったです。ザグレブでもそうでしたが、そういう映画祭独自の文化を知れるのは楽しいなと思いました。

上映の合間、水分を求めて街の給水所の水を飲んだのですが、硬水が身体に合わなかったのかずっとお腹がギュルギュル鳴り続けました。

暑さにたまりかねて映画館でファンタを買ったら4ユーロ(600円ぐらい)もして、映画館の売店が閑散としていた理由がわかりました……。
最終日は短編コンペを3本見て、夕飯にすごく美味しい魚料理を食べました。
ずっと食事が合わなくて、ほぼずっと水、パン&チーズ、ドライフルーツ、お菓子だけで生きていたので、やっと温かくて美味しいものが食べられて嬉しかったです。

パリ
列車でパリへ移動。ホテルに荷物を置いて、皆でインドレストランでビリヤニを食べました。街は落書きやゴミが多く、初めてのパリの第一印象は「思っていたより汚く、多種多様な人種が溢れてカオス」でした。

ザグレブとアヌシーだと、知らない人とも目が合ったらお互いにニコッと微笑む文化があったのですが、パリではあまり人と目が合わないなと思いました。スリが多いと聞いていたこともあり、殺伐とした世界に来たなと感じました。

ホテルのエレベーターは階段の途中に埋め込まれているような感じで存在していました。
今回のホテルは朝食がなかったのが私にとってはプチ試練でした。
近くのスーパーで食パン、ベーコン、レタス、クリームチーズを買い、それらで毎朝サンドイッチを作ってサバイブしようとしたのですが、部屋に冷蔵庫がないためベーコンとレタスはすぐに腐ってしまい、ずっと食パンだけを食べていました。
でもそのパン(ブリオッシュ)が柔らかくて甘くて薄くてとても美味しかったのです。

その翌日はフリーだったので、思いっきり街を回りました。
サクレ・クール寺院でパリを一望した後、アール・サン・ピエール美術館でアール・ブリュットの展示を見たり、ボン・マルシェ百貨店近くの公園で自作サンドイッチを食べながらまったりしたり、改修工事中のポンピドゥー・センターに行ったりしました。



夜はセーヌ川クルーズに連れて行っていただきました。
船が動き出す時の風が気持ちよくて、あらゆる名所やエッフェル塔をいい感じのアングルで見られました。

その次の日も半日フリーだったので、オルセー美術館へ。
フランソワ・ポンポンのシロクマの彫刻が目当てだったのですが、イメージしていた通りのものが急に目の前に現れて「うおっ」となりました。誰もが知っているような有名な絵の前には人だかりができていて、特にゴッホの作品は大人気でした。


至宝を次から次へと見られて感激でしたが、かなりのボリュームだったので疲れ果て、見終わると速攻で地下鉄に乗り込みました。

夕方からパリ日本文化会館で行われたイベントでは、NeW NeWの採択作家と推薦作家、合わせた6人による上映とトークがありました。
日本語で話せばよかったので気楽でしたが、やはり人前で話すのは少し緊張しました。でもお客さんも温かい雰囲気でとても良いイベントでした。

これはリハーサル風景です。
イベント終了後はパーティーがあり、ベランダに出て素敵な街並みを眺めながら談笑しました。
セーヌ川の向こうに見える家々は、とんでもなく高いらしいです。歩ける距離の範囲内にすっごく汚い場所もあれば、真のお金持ちしか住めないような場所もあり、貧富の差にクラクラしました。

その翌日はヴァンドームにあるCiclic animationへ。道中見える景色が牧歌的で、ここでアニメーションを作っていたら世俗と隔絶されて、精神の修行にもなりそうだなと思いました。
スタジオでは『Negative Space』のルー・クワハタさん、『Rhizome』のボリス・ラベさんをはじめとした作家の方々の制作部屋を見学したり、気になったことを質問したりできました。
「質問しようかな、いやいいかな……」と心の中で一瞬迷ったことを、全部ちゃんと質問してきてよかったなと後から思いました。

終わり

帰国日もいろんなトラブルが重なって本当に大変だったのですが、パリのホテルを出て43時間後には無事(?)帰宅できました。
日本の住みやすさも再認識しつつ、ツアー中はずっと生きてるって感じがして本当に楽しかったです。全行程をやり切ったことで自信がつきましたし、一緒に行動したみなさんとは年齢や経歴もバラバラながら、戦友のような絆が生まれたような気がしています。
とはいえツアーの目的であったプロデューサーはまだ見つかってないので、引き続き探さねばですし、よりいっそう制作に打ち込んでいきたいです!