欧州ツアーレポート:ひらのりょう

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ひらのりょう

2025年6月、第一期公募枠の採択者3名(金子勲矩、関口和希、ひらのりょう)が新作のプレゼンテーションを主な目的として、ヨーロッパツアーを行いました。この記事では、ひらのりょうによるレポート記事をお届けします。


ひらのりょうによるレポート

海外で活躍できる短編アニメーション作家育成事業 NeW NeW(New Way, New World: Program for Connecting Japanese Animators to the World)、計18日間に及ぶヨーロッパツアーから無事帰国しました。

正直、無事といっていいのか微妙なところです。なにせ、出発の飛行機が2日遅れるという聞いたこと無いトラブルからはじまり、その後のすべての移動において不運なトラブルが重なるという、とっても大変なツアーだったのです。疲労困憊のなかで次々と立ちはだかるトラブルに、勇猛にも立ち向かう極東のアニメーション作家たち! そんな様子を詳らかにレポートできればいいのですが、今回は割愛させていただきます!(ぜひ、他の参加作家さんのレポートを読んでください!)

というわけで、まずは今回のヨーロッパツアーの目的と行程を簡単に整理しましょう。

まずは目的!

  • 国際映画祭に参加して沢山の人と知り合う!
  • アヌシー映画祭で新作企画のプレゼンテーションをする!
  • 新作企画のプロデューサーとかを見つける!

そして行程!

  • 6月2日〜7日:クロアチア、ザグレブ国際アニメーション映画祭に参加!
  • 6月9日〜15日:フランス、アヌシー国際アニメーション映画祭に参加!
    • 6月13日:午前9時、アヌシーにて新作短編企画のプレゼンテーション!
  • 6月17日:パリ日本文化会館にて作品上映&トークイベント!
  • 6月18日: Ciclic(レジデンス施設)を見学!

なかなかハードです。最終日は体がバキバキになっていました。つらい。

できれば余す所なくどんなことがあったかをお伝えしたいのですが、今回はその一部分。
世界最大のアニメーション映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭での活動内容についてをお届けいたします。

アヌシー国際アニメーション映画祭到着!

ヨーロッパツアーも6日目に入り、アヌシー国際アニメーション映画祭編に突入です。

恐ろしいほど美しい湖に、ヨーロッパの古い町並み、バケーションにぴったりのアヌシーの町(はじめて行ったときは天国かと思いました)を中心に開催されるのが、アヌシー国際アニメーション映画祭。MIFAというアニメーションの国際見本市も併開催され、とにかく街中がアニメーション関係者だらけになります。

そんなアヌシーで自分の短編企画をプレゼンテーションするのがヨーロッパツアーの大きな目的の一つです。

英語で! 人前で! ひとりで! とにかくこれが終わるまでは緊張から解放されないのが今回のツアーです。

初日は、移動で疲れていたこともあり、みんなでアヌシーの街めぐりです。メイン会場前の受付でパスを貰い、アヌシー湖を眺めながら公園を通ると、石畳と古い町並み。その先の坂を登ってアヌシー城へ。
作品がノミネートされると、アヌシーの街が見渡せるアヌシー城の中で開催される「監督パーティ」に招待されます。「ここに入るのは、いつかのそのときに取っておきましょう」というアツい誓いをしつつ、暑さに限界を感じて解散しました。

アヌシーで会いましょう!

私が、アヌシー映画祭に参加するのは3度目。約2万人のアニメーション関係者が世界中からあつまるお祭りですので、SNSを通して知っている作家さんの多くもアヌシーにいるよ! と通知を出していて、会えるのが楽しみのひとつでした。まるで巨大なオフ会! 会いたい作家さんと連絡をとって約束を取り付けるだけでも一苦労です。

以前、東京で共通の友人を通じて出会い、長野の我が家にも10日ほどバカンスで泊まっていた、ペンデルトン・ウォード(Pendleton Ward )さんとも再会できました。ペンさんは世界的なアニメーションシリーズ『アドベンチャー・タイム』のクリエイターのひとりであり、NETFLIXで配信中の『ミッドナイト・ゴスペル』のクリエイターでもあります。そんなペンさんは、カートゥーンネットワークのパネルディスカッションに参加するためにアヌシーに来たとのこと。

ペンさんがアヌシーにいるって気づいて即メール!! 「アヌシーで会いましょう!」。


「めっちゃ暇」という返信がきたので合流することに。

ペンさんと合流すると、アニメーション制作会社Titmouseの設立者であるクリスさんとシャノンさんもおり、一緒にランチをしました。Titmouseは『Scavengers Reign』や『スター・トレック:ローワー・デッキ』などを手掛けている会社です! そんな出会いからTitmouse朝食パーティーに誘ってもらいました。

アヌシー映画祭期間中は、とにかくいろんなパーティーが開催されています。公式のものもあれば、独自に開催されているものもあり、新しい友だちと出会える機会なので、誘われたらビビりながらでも参加してみるのがおすすめです!

昼食後、ペンさんはやることがないとのことで一緒に湖のほとりで絵をかきながら色々お話をしました。13日の朝に人生で初めてピッチ(プレゼンテーション)をやるという話をしたら、「とにかく自分の作品の良さを野獣のように聞かせるんだ! 自信をもって!」と普段の温厚な熊みたいなペンさんからは聞けないようなアドバイスや経験談を教えてくれました。

こんな感じで、ピッチの本番まで出会った人に、「こういう企画を考えていて、こういうのをつくろうとしてるんだ」という話をしたりすることで、自然とプレゼンの練習にもなるし、先輩たちから大切な教訓を受け取ることもできました。とにかく話すって大事!

写真がないので、ペンさんと話しながら描いた落書きを。

知り合いがいないパーティの過ごし方

翌日、誘ってもらったTitmouseの朝食パーティへ向かいます。ホテルはアヌシー中心街までバスで30分の場所で、パーティー会場はそこからさらに先へ行ったところになります。

バスでは不安なのでシェアバイクをつかって向かいます。アヌシーは自転車で移動するにはとても気持ちが良い場所なのでぜひためしてみてください! 40分ほどの道のり。先を走る自転車ユーザーの手旗信号を真似したりしながら、フランスでの交通ルールをほぼマスターしました。

Titmouseの朝食パーティは湖の目の前! 最高のロケーション! だけど不慣れなシェアバイクを使ったせいで結構遅刻してしまった。頼りにしていたペンさんもトークショーのためにもう出なきゃいけないとのこと。やばい。

昨日あったばかりのクリスとシャノンは会社の設立者だから色んな人に囲まれてて、挨拶も難しい状況。

まじで、どうしよう! 知り合いが誰もいないぞ!!

とりあえず手持ち無沙汰を解消するために、オレンジジュース片手にふらふらテラスへ行ってみる。なんかめちゃくちゃ話が盛り上がっていて入り込む隙がない。目の前には美しい湖が広がっていて、とりあえずキラキラ光る水面を眺めてみる。孤独すぎる! このままじゃだめだと、部屋に戻って目があった人に勇気を持って話しかけてみる。

知り合いがいないので、撮った写真。

どういうつながりでここに来たの? なんて聞いてみたり、色々話しかけてなんとか一個の輪に入ることができた!

英語がネイティブじゃないからiPadを駆使して自分の作ってる映像なんかをみせちゃったりして、とにかく話題にくらいついていく! 知り合いがいないパーティどうしたらいいかわかんない!

そうこうしているうちに、Azusa TojoさんのBlenderオンラインクラスで一緒だったKaho Yoshidaさんとオタワ国際アニメーション映画祭以来の再会! オンラインクラスでもたくさん交流していたのですが、実際にアヌシーで再開できたのは本当にうれしかったです。

そこから知り合いの作家さんを紹介してもらったりしている間に、こういうパーティで人と話すのってどうやったらうまくいくの? という話題に。ある人は毎回「そのヒゲいいね」って話しかけるんだって。ヒゲがないひとに対してどうするの? なんてツッコミをいれつつ、そういう話の取っ掛かりを準備しておくのってとっても大事だね! そんな学びを得ました。

知り合いがいないパーティに参加するときはぜひやってみてね!

パーティ、パーティ、パーティ

3年前に監督としてひとりで参加したアヌシー映画祭。先述したアヌシー城での監督パーティでは、ほんとに誰も知り合いがいないなかで、名刺代わりにつくったスッテカーをくばりまくってました。ジョージアのアニメーション作家Ana Chubinidzeさんと出会ったのはそのときで、その縁から2024年の12月にジョージアの首都トビリシのPocket Studioで子どもたち向けにアニメーションのワークショップをする機会をもらいました。

トビリシでのワークショップの様子。

アヌシーでは、毎日のように公式、非公式問わずパーティが開かれます。国別のパーティ、ピクニック、スタジオや会社ごとのパーティ。パーティ、パーティ、パーティです! 私は、誘われたらとにかく参加してみるをモットーに動いてみます。先述したとおりどんな出会いがあるか分からないですから。そんなわけでアナたちから誘ってもらってジョージアピクニックに参加しました。ジョージアのちょっとしたおつまみなんかもあって、友達と再会できてとてもたのしい!

トビリシでは、私が行った12月頃から今に至るまで毎日政府に対するデモが起きていて、そんな近況も聞けたりして。友達と再会できるのも、世界で何が起きているか情報交換ができるのも、世界が少しでもよりよくなることを願えるのも、国際映画祭のいいところです。

最高の上映会

ペンさんからこの上映会にいかない? とのお誘い。

このひと知ってる! 湖のちかくの公園で上映会? とりあえず向かってみる。

ペンさんと合流すると、レベッカ・シュガー(Rebbeca Sugar)さんも一緒に来ていました。Rebbecaさんは『スティーブン・ユニバース』のクリエイターです。すごい豪華。このへんかな〜なんて探していると上映会場を発見!

みつけた! と駆け寄る。アヌシー湖のほとりでDédouze氏による小さな上映会場が設立されてました。

みんなで観客のキャラクターを描いて上映開始。

もちろんアヌシー映画祭非公式の上映会なんだけど、こういうとっても素敵なアイデアでみんながあつまることができる上映会が開催されるのも映画祭ならでは。お客さん同士でお話したり本当に最高のゲリラ上映会でした。

Dédouzeさんは前からフォローしてるとても才能あふれる作家さんで、会えたのめちゃくちゃ嬉しかった!

そんな最高の上映会をあとにして、明日に迫ったプレゼンテーションの練習へと向かいました。

はじめてのプレゼンテーション

13日、午前9時。

こんな朝早く、誰がプレゼン見に来てくれるんだろうなんて言っていたけど。作家さんたちがみんないろんなところで交流、宣伝してくれたおかげで7〜8割は埋まってる状況! すごい!

頭のなかで描いてたプレゼン会場とは全然ちがっていて、パワポを表示する画面もディスプレイだし、冷房はそんなに効かないしで、想定外なことはたくさんあるけど、その状況をどうしたらベストに転換できるかを考えながら本番に望みました。

プレゼン会場のインペリアルパレス。

事前に準備していた日本語の原稿をAIで翻訳してみて練習をしていたのだけれど、知らない単語や口語っぽくない言い回しが口に馴染まず。数日前、ザグレブで自己紹介をしたときもお客さんの顔を見る余裕がないくらい原稿を読んでしまった反省も踏まえて、アヌシーでは原稿を箇条書きにして、下手でもいいから自分の言葉でなるべくお客さんの顔をみながら話せるよう工夫と練習を重ねました。

これまで、いろんな交流やパーティで事前に自分のつくりたい作品について何度も説明してきたのでだいぶ慣れたのもあり、いくつか事前に用意したアイスブレイク用のジョークもうまく会場を和らげてくれて、落ち着いて作品の話ができたと思います。

会場には、朝早いのに、ペンさんやジョージアのPocket Studioのみんなが集まってくれて、ほんとに力をもらいました。友達って大事。

ペンさんからは「とても自信のこもったプレゼンで良かったよ」と言ってもらえて、アドバイスを実践できたと一安心。その後もたくさんの人と交流して作品を実現するための一歩一歩を少しづつですが進められてる感じがして、大変な機会をもらえたことに本当に心から感謝です。

その日のうちにプレゼンで公開したデモ動画をInstagramをはじめとしたSNSにアップしました。

アヌシー関連のおすすめがInstagramに出るようになっていたので、アヌシー映画祭開催期間中にアップすることで関係者にリーチする可能性が高いかもしれないと考えたからですが、結果的に効果があり多くの人から連絡をもらえました。

まとめ

NeW NeWヨーロッパツアーのほんの一部をレポートしました。これだけでもだいぶ濃厚ですが、まだまだ語れることはたくさんあるのです!

今回のツアーを通して、たくさんの友人に助けられ、サポートしてもらっていることに改めて気づきました。そして新しい友人がたくさんできたことがとても嬉しいです。

知り合いのいないパーティとか、誰ともうまく話せなかったらどうしようって、不安で緊張するけど、行ってみればなんとかなるし、そこでの出会いがどんな楽しい状況を生み出してくれるか誰にも分からないので、曖昧な未来を楽しみながら突き進めたらいいなと思います。

しんどくなったら引き返せばいいだけです!

まだまだ制作は続きますので引き続き楽しくやっていきたいとおもいます。

それでは皆様、長寿と繁栄を!


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