カナダツアーレポート:ひらのりょう
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- ひらのりょう
2025年9月、第一期公募枠の採択者3名(金子勲矩、関口和希、ひらのりょう)が新作のプレゼンテーションを主な目的として、カナダツアーを行いました。この記事では、ひらのりょうによるレポート記事をお届けします。
ひらのりょうによるレポート
カナダツアースタート!
国際的に活躍できる作家の育成支援をする New Way, New World 通称NeW NeWも後半戦。今回は約10日間に及ぶカナダツアーに行ってまいりましたので、ここにレポートしていきたいと思います。
カナダでは、世界三大アニメーション映画祭のひとつオタワ国際アニメーション映画祭 Ottawa International Animation Festival (略称:OIAF)が首都オタワで毎年開催されています。私は「パラダイス」という作品の公式コンペノミネート以来、10年ぶりのオタワ訪問となりました。
10年前のオタワ訪問については、今となってはかなり記憶が曖昧なのですが、当時はカナダの知識として『水曜どうでしょう ユーコン川160キロ 〜地獄の6日間〜 』くらいしか持ち合わせておらず。カナダといえば雄大な自然!というイメージだったので、首都であるオタワが、あまりにも都市で、映画祭には友達もいないし、寂しくて、なんか思ってた感じと違う!となった記憶があります。
そんな微妙だったイメージのオタワ及びカナダが、10年ぶりに来てみてどうなったか、ぜひ読み進めていただけましたら幸いです。
時差ボケと深夜徘徊
日本からトロント、オタワと約14時間のフライトを経て無事 オタワへ到着。すでにあたりは真っ暗。日本とカナダの時差は13時間でほぼ真逆です。そんなわけで、ホテルに着いたからって簡単に眠れるわけもなく、少し運動してから寝ようと思い、夜のオタワを散策。(今考えれば海外で一人で深夜歩き回るなんて、危なすぎるのでやっては駄目です。)
ホテルの周りは都市も都市で、大きなビルだらけ。遅い時間なので外にはほとんど人はおらず、少し肌寒いくらいの空気が心地良い。近くに公園があるので行ってみるが街灯もなく真っ暗で、目が慣れたくらいのタイミングでちょこちょこ人影があるのを確認して、「あ、危ないかも」と思い早足に。 公園を駆け回る野ウサギたち。多分人生ではじめて野良のウサギを目撃しました。オタワ、野良猫くらい野ウサギがいます。
少し大きめの動物の影に驚き、よくよく目を凝らしてみるとそこにはアライグマ…。こちらを警戒して威嚇しています。野生のアライグマも初めてみた…。 (アライグマは狂犬病を持ってる可能性があるので絶対に近づいてはいけません!狂犬病が発症すると、致死率はほぼ100%なのでアライグマを見つけたらすぐ逃げましょう。)

あぶない!野生のアライグマ!
公園程度の自然にも危険はいっぱいということで、都市へ逃げ帰る。そこで、電柱にチラシを貼り付けてるお兄さんを発見。オタワの電柱はチラシだらけだったけど、実際に貼り付ける人を見るのは初めてでした。なんのチラシを貼っているんだろうと、チラシを見に行くと、お兄さんが僕に気づき声をかけてきました。OIAFの後に開催されるジャンル映画専門の映画祭 Genre Gems Film Festival のチラシを貼りをしていて、本人は俳優をやっているとのこと。オタワ、めちゃくちゃ文化的だ!そんなわけで映画の話とかで少し意気投合。
オタワの路上、時差ボケの日本のアニメーション作家とオタワ出身の俳優がインスタを交換する、午前2時。
その後、ホテルに戻り、ようやく眠りにつくことができました。

オタワ国際アニメーション映画祭
オタワ国際アニメーション映画祭初日。パスをとりに皆で映画祭事務局へ向かいます。昨日の夜に歩いた公園は、眩しいくらいの緑とカモメや大きなカモたちが歩いててとても爽やかな雰囲気。昨日のウサギやアライグマの影は一切ない。町並みは10年前の印象とは違ってとても美しくて、「こんなところだったっけ?」と困惑しながらも楽しんでいました。
OIAFオープニングは大きくて少しレトロな映画館で開催されました。映画館の面構えが渋くて最高です。ここをメイン会場に街のいろいろなところでアニメーション作品の上映が行われます。
OIAFのオープニングはとてもリラックスした雰囲気で終始笑いに包まれていました。とにかくあたたかくて親近感のある映画祭だというのがお客さんの雰囲気で伝わります。
映画祭のアーティスティック・ディレクターであるクリス・ロビンソンが、お互いを助け合うコミュニティとしてのアニメーション映画祭であることや、移民やトランス、クィアといったマイノリティに対するヘイトが日々増すなかでそのようなヘイトに対する抵抗を明言していたのも印象的で、コンペティション作品の上映の前に、パレスチナ解放への願いを込めた短い作品がいくつか上映されたのも、戦争や分断などに抗する映画祭という一面を感じ、嬉しい気持ちになりました。


『死は存在しない』
NeW NeWでは採択作家が世界的に活躍しているアニメーション作家さんにインタビューをするというプログラムがあります。緊張しながらも、どのように作品を作り上げるのか、どんな作品に影響を受けたのか?などの質問ができる貴重な機会です。
OIAFでは、『Death Does Not Exist』という長編作品をつくったFélix Dufour-Laperrièreさんにインタビューをしました。詳細についてはまた後日別の記事であがると思うので割愛します。お楽しみに!
Félixさんは、過去の作品『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』ではケベック州で実際に起こった住民独立運動をモチーフに作品をつくっていたり、新作の『Death Does Not Exist』でも実際にケベックで70年代に起こった要人殺害の事件をモチーフにしていたりと、政治的葛藤と個人的葛藤が美しい映像とともに描かれる作品を制作されています。
ケベックはカナダでもフランス語が使われる地域ということもあり独立運動が繰り返されていたりと、様々な葛藤がある地域であることなども勉強不足で知らなかったのですが、今回の旅のお供として、手にとって飛行機などで読んでいた本『アナーキーのこと』著者のフランシス・デュピュイ=デリさんと、トマ・デリさんが、偶然にもケベックモントリオールの方で、本の中でもケベックでの運動に関していくつか触れられていたりと不思議な縁を感じるインタビューになりました。
個人的な興味関心だったものが、偶然の出会いのなかでつながったり広がっていくのが嬉しく、Félixさんとの出会いに感謝でした。


スクリーニングとかピクニックとかトークとか
OIAFの上映を観ていてとても楽しかったのが、上映作品の組み方が詩的な作品、コメディ作品、CM、MVなど様々なジャンルが混ざって、たくさんの短編作品を鑑賞するうえで、かなり個性的なリズムを生み出しているところでした。後日OIAFのアーティスティック・ディレクターであるクリスがすべての上映順を組んでることを知って驚きました。OIAFはしっかりとディレクターの個性が反映されていて本当に面白い映画祭です!
OIAFでも、アニメーターたちが集まってピクニックする楽しいイベントがあります。このピクニックでは、インスタだけでつながっていたカナダの作家さんと初めて会って仲良くなることができたり、こうしたコミュニケーションにもNeW NeWを通してずいぶん慣れ、楽しくできるようになりました。えらい!
ピクニックではハロウィンカボチャの彫刻選手権が開催されていて、光栄にも日本のアニメーターたちが審査員をするという形でスポットライトをあててもらい、NeW NeWの作品上映やトークの宣伝もさせてもらいつつ、とても楽しい雰囲気でピクニックに参加することができました。

結果的に、NeW NeWの上映会は満員になるくらい皆さんが見に来てくれて、最終日にはトークイベントも開催されましたが、多くの人が参加してたくさんの質問をもらえ、とても実りあるイベントになりました。やったぜ!
トークイベント後には、カナダのアニメーションを学ぶ学生のみなさんに囲まれて、最近の流行りや今後どういう風に仕事をしていくのか?といった交流が生まれ、大変勉強になりました。


OIAFでのNeW NeWトークイベント

オタワのめっちゃいい公園!
モントリオールへ
そんなわけで、駆け足ですがOIAFは終わり。NeW NeWはケベック、モントリオールへ向かいます。 電車で2時間くらい移動しただけですが、街なかではみんながフランス語を話していて不思議な気持ちになりました。 モントリオールも都会ですが、オタワよりはゆとりがある感じ。紅葉も伴って、都市ながらも鮮やかな町並みです。
モントリオールでは、カナダ国立映画製作庁(National Film Board of Canada 略称:NFB)がスタジオ見学ツアーを開催しているということで参加してきました。OIAFで仲良くなった人たちともここで落ち合ったりできて嬉しい気持ち。NFBではさまざまなスタイルの作家さんたちがそれぞれユニークなプロジェクトを制作中で、そのプロセスを見せてもらいました。質問も飛び交い夢中になって見学していたら、いつの間にか足が限界を迎えていた始末。制作に理想的な環境をどうつくるかを真剣に考えるきっかけになりました。


スタジオ見学!
先日インタビューさせてもらったFélixさんのスタジオも見学させてもらえることに! 新作のための実験開発部屋では、さまざまな手法をテストし、アニメーターたちと共同で作るために最適化を試みていたり、別の長編用の部屋では多くの人が机を並べて仕事をしていたりと、想像していた数倍の大きさのスタジオで驚きばかりでした。
お家の自分の部屋でコツコツつくっている身からすると夢のような環境です。たくさんのプロジェクトを同時に走らせながら、Félixさんたちはコマーシャルの仕事をせずに、自分たちの作品だけでスタジオを回しているという話をきいてさらに驚愕しました!
かなりリスキーに回しているという話はしていましたが、スタジオはさらに広がっていくとのことです。すごすぎます! アヌシーで仲良くなったアニメーターの子とも再会できて、嬉しかったです。

E.D.FILMS
2箇所目のスタジオ見学はE.D.FILMSさんです。モントリオールにお家のようなスタジオを構えていて、一部がオープンスタジオとして見学することもできます。内装がとても可愛くて、ちょっとした博物館のようでワクワクします。
E.D.FILMSさんはアニメーションの技術的な部分にとても強く、CGやゲームエンジン、Blender、VRといったデジタル技術でアーティスティックな表現をするための技術を開発しながら、オリジナルの作品をいくつも手掛けています。テクノロジーと作家性を橋渡しするような事業のお話は、最近Blenderを覚えていた身としては、お話を聴いているだけで感心とワクワクが止まりませんでした。
なにより、小さな博物館のような雰囲気のオープンなスタジオという形式がとても素敵で、こういうやり方もあるのかと自分もなにか未来でこういうものをつくってみたいという新しい夢のようなものができました。


シネマテーク・ケベコワーズ
NeW NeWカナダツアーの最終地点は、シネマテーク・ケベコワーズでの上映会とトークです。 シネマテーク・ケベコワーズは、カナダの映画に関するあらゆるものをアーカイブしている施設で、アニメーションの原画なども保管してあるとても貴重な施設です。上映と展示施設があり、成瀬巳喜男特集などが開催される様子もあり、映画好き垂涎という雰囲気でした。施設内に大林宣彦監督の『HOUSE ハウス』デザインのタンブラーが置いてあったことに、テンションがあがりました。


今回は作品上映後に英語でのプレゼンテーションが行われます。 お客さんが来てくれるか、うまく話せるか緊張しながら本番を迎えました。 客席はほぼ満員で、NFBやOIAFで出会った人も来てくれたり、とてもあたたかな雰囲気で上映会がはじまりました。
自分の番になり、アヌシーぶりとなる久しぶりのしっかりとしたプレゼンテーションです。原稿は用意していたのですが、途中で見失ってしまい、なんとかアドリブで、とにかくお客さんとコミュニケーションをとることを意識してプレゼンを続けました。 ここで、準備してきたデモ映像の音が流れないというトラブルが発生!焦りましたが、「音が出ないのはもうしょうがない」と、その場で自分の声でマイクを使って音をつけるパフォーマンスに変えることで場の空気も緩み、なんとかプレゼンも最後まで続けることができました。NeW NeWで人前で英語で話すという、普段なかなかやらないようなことを大小含めて場数を踏む機会をもらえたことで、突然のトラブルにも対応できるようになってきたように思います。

上映後に、たくさんの人に声をかけてもらったことで、「またオタワ、モントリオールに戻って来て新作を観てもらえるように頑張ろう」と素直に思えたこと。これが一番の収穫となりました。
そんなわけで、新作の制作もがんばるぞ! それではみなさま、長寿と繁栄を!

オタワのヴィンテージショップで買ったお土産たち

2025.10.16