カナダツアーレポート:金子勲矩

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金子勲矩

2025年9月、第一期公募枠の採択者3名(金子勲矩、関口和希、ひらのりょう)が新作のプレゼンテーションを主な目的として、カナダツアーを行いました。この記事では、金子勲矩によるレポート記事をお届けします。


金子勲矩によるレポート

カナダツアーでは、欧州ツアーと同様に、自身の過去作品上映と新作のプレゼンテーションを行うことが大きな目的でした。9/24 ~ 9/28 にオタワ国際アニメーション映画祭で作品の鑑賞と自身の活動の紹介、9/29 ~ 10/2はモントリオールにてアニメーション関連の諸施設(NFB、アニメーションスタジオ)の見学と、シネマテークケベコワーズでの作品上映とプレゼンテーションを行いました。

オタワ国際アニメーション映画祭は、6月に参加したザグレブとアヌシーの映画祭とともに、世界三大アニメーション映画祭の一つです。コンペティション作品などが上映される、バイタウンシネマ(ByTowne Cinema)を主な会場として、アートコート(Art Court)と、併設のオタワ美術館(Ottawa Art Gallery)などの会場で上映やトークがおこなわれます。アヌシーのMIFAに相当するTACという業界向けのカンファレンスも国立芸術センター(National Arts Center)で開催されていました

いくつかのプログラムでは上映前にアーティスティックディレクターのクリス・ロビンソン氏による前口上があり、プログラムの説明や作品・作家の映画祭とのかかわりなどの小話で来場者の興味を掻き立てていました。開会式や閉会式などの同氏による司会進行は、ある種のコント仕立てになっており、例えば「AI」役の人がファクトチェックと称してクリス氏のジョークを機械的に正誤判定し、時間がたってからずれたタイミングで返答が返ってくるなど、時事ネタを反映したジョークで会場の笑いをさそっていました。上映プログラムの組み方に特徴があり、商業・ミュージックビデオ・学生作品などを同じプログラムに入れて構成していました。コンペティション作品の一次審査もクリス氏が行っているとのことで、同氏個人の、独自の美意識がおおいに発揮されている映画祭だと感じました。

屋外のピクニックでは例年ハロウィンに合わせて、パンプキンカービングのコンテストが行われており、集まった人がそれぞれの腕前を披露していました。今回はNeW NeWの作家6名がパンプキンカービングの審査を行うことなるなど、面白いサプライズがありました。

NeW NeWのイベントは、TACではなく映画祭自体のプログラムに組み込まれていて、上映が2回、別にトークイベントが1回という構成でした。オタワでグランプリを獲得した経験のある、推薦枠作家3名が一堂に集まるイベントということもあり、いずれも多くの来場者がありました。

オタワ国際アニメーション映画祭終了の翌日、オタワ駅からVIA鉄道で2時間ほどかけてモントリオールに移動しました。到着初日に、NFBのオープンハウス(Open House)に参加しました。NFB(カナダ国立映画製作庁)は、カナダ文化遺産省の管轄で、アニメーションやドキュメンタリー、インタラクティブメディアの製作・配給を行う官庁で、オープンハウスではガイド付きのスタジオツアーで作家の作業場をまわりそれぞれの製作について話を伺うことができました。ドローイングからメディアアートに近いものまでさまざまな作家から直接お話しを伺う貴重な機会となりました。その中で、オタワの映画祭でも上映されていた、『The Girl Who Cried Pearls』でテクニカルディレクターを務めたエリック・プーリオ氏の話しを紹介します。同作は、セリフのあるパペットアニメーション作品で、パペットの動きをコンピュータに読み込ませる方法に非常に面白い工夫がありました。口がない状態のパペットを撮影して、あとからセリフに合わせて口の3DCGモデルを合成して動かす方法をとっているそうですが、撮影した映像をもとに動きをトラッキングするのは非常に手間がかかります。そこで、パペットの顔にブラックライトを照らした時だけ見える点をトラッキングする際のマーカーとして描きこみ、通常のライティングで撮影したあと、照明をブラックライトに切り替えて、今度は顔のマーカーだけを撮影するという方法を考え出したとのことでした。そうすることで、パペットの頭の動きの情報だけを読み込むことができ少ない手間で精度の高いトラッキングを実現できたとのことでした。また、口の動きを後で合成することでフランス語版と英語版など言語に合わせて口の動きを変えることもできたようです。なお、オタワ国際アニメーション映画祭の同作品のトークイベントで聞いた内容ですが、すべてのシーンで口を動かしているわけではなく、祖父が孫に昔話を始める現在のシーンでは口を動かし、祖父の話の内容を映像にした過去のシーンでは口を動かさないなど、表現上の選択が意図的に行われているそうです。

シネマテーク・ケベコワーズは、NFBから歩いて15分ほどの場所にある、ケベックの映画、テレビ、視聴覚資産や世界のアニメーションを保管し保護することを目的とした組織です。そのコレクションはフィルムだけでなく、絵コンテや製作メモ、パペットや作家の絵画やイラストレーションなどに及びます。最初のツアーで、展示ギャラリーや収蔵庫などをまわりそれらを紹介いただきました。フレデリック・バックの絵画や、川本喜八郎の人形、ノーマン・マクラレンのイラストレーション、コ・ホードマン『シュッシュッ』の置き換えアニメーションで使われた積み木などをがあり、その充実ぶりに圧倒されました。アーカイブのほかにも映画館で上映も行っており、そこで開催されたNeW NeWのプログラムで第一期の作家6名が紹介されました。作品上映とそのあとにトークがあり、自分の活動についてと新作の企画についての紹介をおこないました。イベント後のレセプションには多くの方の参加があり、作品について直接感想や意見をもらうことができました。

以上のイベントに加え、モントリオールのスタジオを見学する機会もありました。『Death Does Not Exist』や『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』などを監督した、フェリックス・デュフール=ラペリエール氏が設立したEmbuscade Filmsと、CGをはじめとしたデジタル技術を駆使して作品を製作しているE.D.Filmsの2つのスタジオを見学しました。最初に訪問したEmbuscade Filmsは大きなスタジオで、いくつの部屋で複数のプロジェクトが進行しておりました。公式サイトでも紹介されている企画開発中の『Everything in its place』のビジュアルの開発の様子、製作が開始されている『The Shiatsung Project』にかかわっているアニメーターやディレクターから製作途中のシーンやワークフローについて丁寧にお話を伺えました。製作中の作品ですので詳細は控えさせていただきますが、どの企画もそれぞれ魅力的で完成を見るのが楽しみでした。

次に訪問したE.D.Filmsは、『Return to Hairy Hill』など3DCG作品でありながら、まるで紙を折り曲げて作っようなモデルが登場する、独特なスタイルの作品を手掛けたスタジオです。3DCGで作ることで、紙のようでありながらもCG特有の硬質な雰囲気が魅力的な作品に仕上がっていました。実際の紙のパペットを観察してモデルを作っているとのことでスタジオの入り口のスペースには紙のパペットや造形物が外からも見えるように展示され道行く人の目を引いていました。そのような独自の表現を行うため、E.D.Films では精力的にR&Dを行っているようでいくつかのツールのデモを行っていただきました。紙のパペットのモデル製作を支援する目的で、Photoshopのデータをもとに、3DCGで2.5D風のモデルを作成するツールを開発しているなどの技術的なお話しをたくさん伺いました。開発したツールについては公式サイトから確認することができ、興味があればそこから問い合わせることも可能とのことです。

アニメーションの世界でカナダが大きな役割を担っていることを改めて実感できるツアーでした。NFBによる製作の支援、オタワ国際アニメーション映画祭という発表の場、さらにシネマケベコワーズの関連資料のアーカイブ事業までそろっていることはアニメーション作家にとっては非常に心強いことなのではないかと思います。

オタワ国際アニメーション映画祭のポスター

オタワ国際アニメーション映画祭上映会場。

オタワの公園に生息するリス

『木を植えた男』の展示のポスター。フランス語と英語が併記されている。

パンプキンカービングコンテスト1位の作品

パンプキンカービングコンテスト2位の作品

パンプキンカービングコンテスト3位の作品

NFB庁舎の外観

NFBにて『Bread Will Walk』の上映会場。フランス語タイトルもひとひねりあって面白い。

NFBにて『Bread Will Walk』のキャラクターの着ぐるみの一部

NFBにて撮影に使われた小道具と写真が貼られたコルクボード

シネマケベコワーズ所蔵のフレデリック・バックの絵画

川本喜八郎の人形

コ・ホードマン『シュッシュッ』で使われた積み木

シネマケベコワーズの上映会場

カナダ料理プーティン

日本風居酒屋「biiru」の内装

トロント空港内に設置されたリチャード・セラの彫刻《Tilted Sphere》


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