「NeW NeW」第一期公募枠アーティスト発表会レポート

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登壇アーティスト
金子勲矩
関口和希
ひらのりょう
モデレーター
土居伸彰
ホワイト健

2025年2月22日(土)、東京・TODA HALL & CONFERENCE TOKYOにて、短編アニメーション分野における人材育成プログラム「New Way, New World: Program for Connecting Japanese Animators to the World」(以下「NeW NeW」)第一期公募枠採択アーティスト発表会が実施されました。採択アーティストの金子勲矩、関口和希、ひらのりょうが登壇。「NeW NeW」総合プロデューサーのニューディアー代表・土居伸彰がモデレーターを務めました。

「NeW NeW」概要

冒頭では「NeW NeW」事務局のCG-ARTSより、同プログラムの概要が説明されました。「NeW NeW」は、海外進出に強い意欲を持ち、なおかつ国際的な活躍が今後期待される日本国内の短編アニメーション制作者を対象に、育成から海外展開までを立体的にサポートする目的で新設された、短編アニメーション分野における「新しいやり方で、新たな世界を切り開くプログラム」です。

その第一期として、公募によって選ばれた3名の公募枠アーティストに加え、海外ですでに高い評価を誇る3名の若手アニメーション作家(折笠良、ニヘイサリナ、矢野ほなみ)を推薦枠アーティストとして選抜。以上、計6名を2025年3月から11月までの9か月間サポートします。

続いて土居から同プログラムの詳細が説明されました。第一期の支援対象作家に対する具体的なサポートの内容は以下の通りです。 

〈公募枠・推薦枠共通〉

◆海外ツアー:主要アニメーション映画祭と関連都市への渡航支援

6月=ザグレブ国際アニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭、パリ

9月=オタワ国際アニメーション映画祭、モントリオール

◆海外ツアー中の上映・トーク・ネットワーキングイベントの開催

ザグレブ国際アニメーション映画祭:マスタークラス・レクチャーイベントの開催

アヌシー国際アニメーション映画祭:新作プレゼンテーション(ピッチ)の機会提供

パリ:アニメーション関係者および一般観客を対象としたトーク付き上映会の開催

〈公募枠のみ〉

◆新作の企画開発のサポート:企画開発費の提供(40万円〜130万円)など

◆国内映画祭への参加:新潟国際アニメーション映画祭・新千歳空港国際アニメーション映画祭

◆国際的に活躍するアニメーション関係者によるコーチングやアドバイスの提供

◆プレゼンテーション資料の制作サポート

国内外映画祭への派遣やアドバイザーによるコーチングに加え、公募枠アーティストに関しては「制作」ではなくその手前の「企画開発」を手厚く支援する点に同プログラムの独自性があるといいます。手厚い支援によって新作企画の質を向上させつつ、国内外アニメーション関係者とのネットワーキングを強化し、プレゼンテーションの機会を重ねていくことで、採択作家たちが海外プロダクションとの国際共同製作を成立させることが目標のひとつになります。

第一期公募枠アーティストの紹介

同プログラムの紹介に次いで、第一期公募枠アーティストとして採択された3名による自己紹介と新作についての簡単なプレゼンテーションが行われました。

〈金子勲炬 企画名『Crabs and Rabbits』〉

概要:カニとウサギをモチーフに、「カニを食べるウサギがいたら」という仮定から発想を広げて制作中。

金子は、これまで頭が無機物で身体が人間という造形のキャラクターを描いてきましたが、新作では動物をモチーフにしたキャラクターに挑戦。「もしもカニを食べるウサギがいたら」という独創的な着想のもと、現実では交わることのないカニとウサギを結び付けて世界観を構築することで、どこか遠い世界での事件を眺めているかのような印象を与えたいと語りました。

〈関口和希 企画名『アニメーション作家のねこちゃん』〉

概要:かつてアニメーション作家として活動していた主人公「ねこちゃん」は、同世代の作家への嫉妬から筆を折ってしまう。しかし、過去の自分が作った作品を偶然目にしたことで、再び情熱を取り戻す。

フリーランスのアニメーション作家として子ども向けのテレビ番組やCMなどを手がける傍ら自主制作を続ける関口は、自身の経験を色濃く反映した短編アニメーションが映画祭などで評価されています。新作では、自身の出産と子育て経験を出発点としつつ、同世代の作り手への嫉妬や育児と制作のバランスなどを、より多くの観客に訴えかけることのできる普遍的な作品を目指しているとのことです。

〈ひらのりょう 企画名『NIGHT IN THE EYEWALL』〉

概要:台風に閉ざされた温泉旅館で、少年は片角の鹿と出会う。迷路のような館内を彷徨う夜。揺らぐ境界と衝突の中で新たな光が立ち上がる。

ひらのは、アニメーションを足場としながらも、マンガや編み物など、多彩な創作活動を展開するアーティスト。「境界の物語」をテーマに、人間と妖怪など様々な事物の「境界」に着目して制作をしています。コロナ禍をきっかけに東京を離れ、長野の富士見町に移住したひらのさん。移住先の環境が要求する厳しい自然との共生の中に自身がテーマとする「境界の物語」を見出し、新作の企画に結実したとのことです。

育成プログラムとしての企画書制作&オンライン面談

土居は、短編アニメーションは歴史的にヨーロッパを中心にシーンが形成されているため、海外進出を目指すうえではヨーロッパからの視点を意識することが有効と強調。それを踏まえ「NeW NeW」では、ヨーロッパで活躍するアニメーション関係者をアドバイザーとして多数起用し、採択までのプロセスでは、応募者たちとのオンライン面談に臨んだアドバイザーたちからのフィードバックを重視したそうです。

金子は、これまで一人で制作してきたため、このアドバイザーたちとの面談を通じて自分の作品に説明不足な部分があったことに気づかされたとのこと。反面、自分では自覚していなかった自身の魅力も指摘してもらえたとのことです。関口は、海外のアドバイザーたちからは社会的な観点からの指摘が多く寄せられたと明かしました。関口自身、過去作では社会的な視点が不足していたと感じていたため、面談を通じて、次の段階に進むための課題が明確になったと語りました。ひらのは、応募に際して企画書の提出が求められたため、企画書の執筆に初めて取り組んだとのこと。これまでは自分一人で制作のほとんどが完結していたため企画書を用意する必要がなく、漠然と制作を進めてきてしまっていた部分があったと告白。今回、企画書を執筆するためには自作と客観的に向き合う必要があり、勉強になったと語りました。

今後、公募枠アーティストの3名は、6月のアヌシー国際アニメーション映画祭併設の見本市「MIFA」でのピッチに向けて、新作の企画開発に取り組んでいきます。

「NeW NeW」の今後の予定

最後に「NeW NeW」では採択作家の支援にとどまらず、日本の短編アニメーション映画シーン全体の活性化を目的とし、今後、以下の施策を実施していくことが明かされました。

①〈海外アドバイザーの日本招聘によるネットワーキング促進〉

同プログラムにアドバイザーとして携わる海外のアニメーション関係者たちを日本に招聘し、レクチャー等を開催。さらに招聘したアドバイザーと日本のアニメーション関係者との会合を設け、日本のアニメーション業界に対する理解を深めてもらいつつ、今後の国際的な交流を促進するとのことです。

②〈スクール事業〉

①と関連してスクール事業も予定。世界のアニメーション映画祭を目指す日本国内のアニメーション制作者同士の横のつながりを促し、世界に挑戦する意欲を持った作り手同士が知見の共有や交流を図る「NeW NeWコミュニティスクール」を発足。同スクール事業は、今後予定されている第二期・第三期公募枠アーティスト募集に先立つワークショップ的な側面を有しているため、「NeW NeW」への応募を検討している作り手は積極的に参加してほしいと呼びかけられました。

③〈国内アニメーション作家に関する情報発信:データベースサイト〉

現在公開中の「NeW NeW」ティザーサイトの大幅なアップデートを今後予定しており、海外のアニメーション関係者に日本の短編アニメーションに関する見取り図を提供するべく、国際的な実績を誇る国内短編アニメーション作家たちを集約したデータベースの構築に取り組んでいる最中とのこと。同サイトでは、その他にも同事業の活動報告などを公開していく予定とのことです。