新潟国際アニメーション映画祭レポート:関口和希
- 文
- 関口和希
こんにちは、アニメーション作家の関口和希です。
NeW NeWの第一期採択作家として、第3回新潟国際アニメーション映画祭に参加してきました!
とても熱く濃い一週間だったので、記憶が新鮮なうちにレポートします。


Day0(3月14日)
東京から新幹線で約2時間、夕方ごろに万代シルバーホテルにチェックイン。レトロな雰囲気漂うホテルで、泊まった部屋は街がよく見渡せる上階でした。

今回のツアーの目的の一つに「映画祭関係者とのネットワーキング」がありました。積極的な参加を意気込みつつも、若干プレッシャーも感じていたので、近くの無印良品で精神のお守り代わりに入浴剤を買いました。


Day1(3月15日)
午前:ホテルのロビーで採択作家のひらのりょうさん・コーディネーターの尾関加純さんと合流後、古町ルフル11階の開志専門職大学へ。
NeW NeWの私たちは新潟アニメーションキャンプ(※編集注:同映画祭が実施する次世代育成プログラム)の一員のようなそうではないような不思議な立ち位置で参加していて、マスタークラスの受講が必須になっていました。この日は「中国アニメーションに何が起きているのか」を受講しました。スライドを見ながら講義を聞き、最後にQ&Aもありました。
講義が始まる前に、突然英語での自己紹介タイムが始まって焦りましたが、なんとか乗り切りました。

午後:新潟市民プラザにてオープニングセレモニー。
押井守さんのビデオメッセージで、今後アニメ界はどうなっていくか? という質問に対して「どうなるかではなくどうしたいか。優れた作品によって決まる。優れた作品が現れることでしか変わらない」といったことが言われていて、確かに……と思いながら聞いていたらいつの間にか移動時間に。あわてて次の会場へ向かいました。
その後、市民プラザにて李佳佳監督『She is Min』のWIP(ワーク・イン・プログレス:制作途中の作品の紹介)上映とトークの後、『アートカレッジ1994』を鑑賞。この日はたまたま中国関連のプログラムが多く、中国のアニメ事情を知れた一日でした。

夜:ホテルのロビーにて、ひらのさん・尾関さんと振り返りミーティング。このミーティングは映画祭期間中の毎晩設定され、観たプログラムの感想などを共有し合う時間でした。
私はこの日、Q&Aの時間に何も質問できなかったので、明日こそは質問すると誓いました。


Day2(3月16日)
午前:開志専門職大学にて、マスタークラス「韓国映画アカデミーが挑戦した低予算アニメ制作プロジェクト」受講。
午後:T・ジョイで『クラリスの夢』、市民プラザで『バレンティス』『ペリカン・ブルー』『Sun Xun 短編集』を続けて鑑賞。
『クラリスの夢』は母親を亡くした女の子の物語で、東京にいる1歳の娘と自分を重ねて思わず涙しました。この日は長編コンペをたくさん観られてハッピーでした。

上映後のQ&Aは、観た人たちが床に座り、監督を囲んで質問していくスタイルでした。だいぶ距離が近くて、熱気ある感じでした。
夜:メディアシップ20階のSky Bar Floorにて、恒例の振り返りミーティング。
朝から何も食べていなかったのでフードメニューの油揚げを頼みました。毎日発行されていた新聞「新潟国際アニメーション映画祭デイリーニュース」をレジで見せたら100円引きになりました。
私は昨晩のミーティングで誓った通り、今日は上映後のQ&Aコーナーで質問を2回できたことを報告し、ひらのさん、尾関さんとお互いを称え合いました。

このシュッとした建物がメディアシップです。

Day3(3月17日)
午前:市民プラザにて『ペーパーカット インディ作家の僕の人生』を鑑賞。長編コンペの中でも特に観たかった一本だったので観られてうれしかったです。
午後:コンペティション監督記者会見vol.1。
終了後、『ペリカン・ブルー』のラースロ・チャキ監督とお話できる機会があり、自分も実体験を元にした作品を作っていることを話したら”Life is the best script.”というお言葉をいただきました。
その後、市民プラザにて『口蹄疫から生き延びた豚』、日報ホールで孫遜監督『Magic of Atlas』WIP上映&トークを鑑賞しました。
夜:メディアシップ20階のSky Bar Floorにて、コンペ監督や関係者、新潟アニメーションキャンプの参加者などが集まりオープニングパーティー。
冒頭には芸妓さんによる伝統的な踊りが披露され、和を感じました。高層階からの夜景も美しかったです。テーブルの上にあったモツ煮チックなおかずを何気なく食べたら、穏やかな見た目に反してものすごく辛くて焦りました。いろいろな方と名刺交換したり、お話できて楽しかったです。


Day4(3月18日)
午前:日報ホールで審査員のクリスティン・パヌシュカさんのトーク。
終了後にみなさんでご挨拶に行った際、一枚ずつ違った柄の手描きのカードをいただいて感激しました。

昼:メディアシップのSky Bar Floorにて、グローバル・アニメ・チャレンジの皆さんとの昼食会。
叙々苑のお弁当を頂きながら談笑しました。商業系のアニメーターの方と接する機会はめったにないのでたくさん雑談できて楽しかったです。
午後:イタリア軒にて、採択者全員とゲルベン・シュケルマーさん(※編集注:キュレーター。今回の新潟国際アニメーション映画祭では中国関連プログラムのキュレーションを行う)、孫遜(Sun Xun)さんとの座談会。
始まる前は「追い詰められた目をしてる」と言われるほど緊張していましたが、影響を受けた作家や心構え、制作のエピソードなどを聞かせていただき貴重な時間になりました。
私は「どうやったらそんなに多くのことができるのか」という旨のことをお聞きしたのですが、そんなぬるい質問をしたのを少し後悔するぐらい、どんなことにも決然と答えられていたのが印象的でした。事前にプランは立てない、とにかくやる、ということを仰っていたのがビシビシと響きました。


座談会中に監督が書いたメモ入りのコースター。
その後、万代シルバーホテル内の寿司屋にてルパート・ボッテンバーグさん(※編集注:ファンタジア国際映画祭アニメーションプログラマー)との交流会。
肩肘張らないランチタイムという感じの会でした。お寿司を食べながらいろいろなお話を聞いたり、ファンタジア国際映画祭のパンフレットを見せていただいたりしました。

Day5(3月19日)
歩くのに疲れてきて、この日から移動はほぼバスに。
各会場まで乗ると一回260円で、バスだとオートチャージが使えないのでたまに残高不足になりました。

午前:開志専門職大学にて、dwarfのプロデューサーで審査員の松本紀子さんのトーク。
午後:日報ホールでルパート・ボッテンバーグさんのMeet the Programmerプログラムを観た後、市民プラザで『かたつむりのメモワール』を鑑賞。そしてメディアシップに移動し、コンペティション監督記者会見vol.2を見ました。
夜:ゆいポートにて、コンペの監督たちと新潟アニメーションキャンプの参加者たちの交流会。
メディアシップからゆいポートまでは徒歩で移動したのですが、寒すぎました。ゆいポートは今は無き3331 Arts Chiyoda的な、学校のような雰囲気の施設でした。
長いテーブルに監督が一人ずつ座り、そこに早い者勝ちで参加者が数人ずつ座って集団面接のようなスタイルで質問していったのですが、途中での席替えもなく、一人の監督と約1時間ほどみっちり話せた濃密な時間でした。

私と金子さんはエリック・パワー監督のテーブルに着き、キャラクターの紙製パペットを見せていただきました。思っていたより大きくて、関節部分は「ひっつき虫」的な白いゴムで止めてあり、自由に動かせるようになっていました。

最後はあちこちでサイン会の流れになり、私はエリック・パワー監督と『ペリカン・ブルー』のラースロ・チャキ監督にサインを書いていただきました!


Day6(3月20日)
万代シティのバスセンターのカレーが名物と聞き、朝に一人で食べに行きました。
何も知らずに「普通サイズ」を注文したらびっくりするぐらい多くて、周りを見渡すと老若男女全員スモールを頼んでいました……。

※体感イメージ
午後:映画祭事務局にて『かたつむりのメモワール』の監督、アダム・エリオットさんとの座談会。ソワソワして集合時間よりだいぶ早めに着きました。
とても柔らかいお人柄で、こちらの質問したことを何倍にも広げて返してくださるのが印象的でした。”Idiosyncrasy”という言葉を知ったり、キャラクター作りや脚本についてのお話を聞けました。緊張したものの、あっという間の時間に感じ、貴重な体験になりました。

夜:市民プラザで授賞式と『ルックバック』のアワード上映を鑑賞。
その後、近くのお店で打ち上げがありました。全てのスケジュールを終え、どこか解放されたようなテンション感でひらのさん、金子さんと打ち上げのお店まで歩いたなと覚えています。

Day7(3月21日)
朝:もう帰るだけの気持ちでいたところ、ホテルのロビーで『クラリスの夢』のグト・ビカルホ監督と偶然お話しできました。気になっていたことを質問したり、タブレットで設定資料を見せていただいたりしました。
制作の裏側を垣間見られたうれしさと、最後に「台本なしで英語で質問できた」という成功体験を得られたことにより、総合優勝な気持ちで帰宅の途につきました。
まとめ
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回のツアーで思ったのは、映画祭は積極的に参加すると楽しいなということです。頑張れなかった日は自分のことが少し嫌いになりますが、勇気を出せた後は最高な気持ちになれます。質問すると、後で監督に会える機会があった際に「ああ、質問してくれた人ね」と覚えてもらえるのがうれしく、積極的な姿勢は大事だなと思いました。
映画祭ってきっと普通に参加するとやや蚊帳の外感のある催しかもしれませんが、がんばったことが何も無駄にならない場でもあるなと感じました。

英語に関しては、丸腰で挑んでしまってもったいなかった場面も多かったですが、それ以外は現時点で自分が出せる最大の積極性で臨めたのではないかなと思います。ひらのさんは常に先陣を切って質問していたり、売り込みアイテムも興味深いものをたくさん用意していたりと姿勢から学ぶものが多く、今回、自分一人だったらしょんぼりしていたようなシーンで頑張れたのはそこからもたらされた勇気が大きかったです。
そして今回、一番重宝したアイテム、それはiPadです。ノートを取ったり、話に出た作品をすぐ検索して「これですか?」みたいな感じで示せて便利でした。必要な時、とっさに自分のサイトや作品を表示して「こんなの作ってます」と見せられたのも助かりました。
名刺やiPadだけではなく、作品紹介パンフレットやビジュアル入りのポストカード、ステッカーなど「相手に渡せるお土産みたいな自己紹介アイテム」があるともっとよさそうでした。
長編だけの映画祭に参加したのは初めてでしたが、長くて本数が少ない分、各作品が深く印象に残ってよかったです。しかし、作品を観ていないと監督に会えても何を話せばいいかわからなかったので、スケジュールの都合でコンペ作品を全部観られなかったのは心残りでした。日本で上映される作品もあるらしいのでチェックしたいです。
ありがたいことにNeW NeWのツアーはまだ予定されているので、次の機会も楽しく頑張りたいと思います!
