「NeW NeW」第一期公募採択者月次面談第二回レポート
- 参加アーティスト
- 金子勲矩
関口和希
ひらのりょう - コーディネートチーム
- 土居伸彰(総合プロデューサー)
尾関加純(コーディネーター)
田中大裕(コーディネーター) - 文
- ホワイト健

第一期公募枠採択作家たち全員が新潟国際アニメーション映画祭に参加中だったため、前回に引き続き今回も対面での実施となります。
まずは「NeW NeW」総合プロデューサーの土居伸彰から、「作品製作のために必要不可欠な資金調達」をテーマに、日本人作家がアクセス可能な国内外の助成制度を整理するレクチャーが行われました。
短編アニメーションを一定以上の予算規模で製作するためには、国際共同製作を実現し、複数の国の支援制度を組み合わせることが必要であると土居は語ります。ヨーロッパの助成制度は全体像の把握が困難なほど多岐に渡るため、信頼のおける現地プロデューサーとパートナーシップを結ぶことが重要なのだそう。また、現地スタッフの雇用を条件とした助成制度も多いため、完全な個人制作ではなく、スタッフを登用するグループワークも視野に入れることで、さらに可能性は拡がるとのことです。
しかしながら、そうした支援を受けるためには厳しい審査を突破する必要があり、その審査の際に重視されるのが映画祭での上映・受賞歴だそうです。著名な映画祭での上映・受賞歴が大きな影響力を持つのは言うまでもないですが、それだけではなく、上映・受賞の数も大いに考慮されるといいます。また、映画祭の審査員は業界関係者であることが多いため、規模の大小を問わず映画祭には積極的に応募して、より多くの関係者の目に触れることが、国際共同製作を実現するためには重要であると強調されました。
また、国際共同製作と自主製作の違いを契約の面から説明する場面も。最も大きな違いは、国際共同製作においてはプロデューサーとの協働が不可欠なため、作品の権利が作家に帰属するとは限らないという点だそうです。作家はプロデューサーに雇われる形となり、監督料をはじめとする各種稼働に応じた賃金と、作品完成後には上映印税が支払われることになります。
ひらのりょうからは配信に依存しない流通のあり方について質問がありました。作品のソフト化やアートブックの販売など、物理メディアでの作品展開にも意欲を見せるひらの。プロダクション主導の製作だと、そうした展開に制限が生じるのではないかという懸念を抱いている様子。それを受け土居からは、プロデューサーもアーティストのやりたいことを無闇に制限することはしないため、協議を重ねながら契約を進めれば問題ないとの見解が示されました。実際、土居が過去に携わった事例の中には、原画などの中間生成物を作家自身が自由に販売できるケースもあるとのことです。
関口和希からは、過去のうまくいかなかった助成申請の経験や、グループワークへの率直な不安が語られました。土居は資金調達を任せられるプロデューサーの重要性や、各スタッフとのコミュニケーションをサポートする制作進行の必要性を指摘。自分自身が制作に集中できる体制の構築を常に念頭に置くことが大切であると語りました。
その後、各採択作家が企画開発中の新作に対して、土居から主要な映画祭の選出・授賞傾向を踏まえたコメントが寄せられました。
金子勲矩に対しては、ビジュアルの独自性は申し分ないものの、現状だと「美しいイラストレーションが動いているだけ」という印象を与えかねない懸念があり、観客が物語に没入するための「映画的」な空間表現を強化する必要があるかもしれないと土居は言います。そのあたりはコンポジットの創意工夫で解消されるかもしれないとのことで、協力をお願いしているスタジオジブリ作品などに携わるコンポジッター・泉津井陽一さんとの打ち合わせに向けて準備を進めることになりました。
反対にひらのは、現状すでに「映画的」な空間が十分に構築されている一方、キャラクターデザインの「キャラ感」がヨーロッパの観客には過剰にかわいらしすぎる印象を与えるかもしれないとの指摘が。脚本を見直し、観客のアバターとなる少年の目線に寄り添った構成を心がけることで、観客の没入感がより高まり、そのあたりを補えるかもしれないと土居は語ります。
関口の作品もキャラクターデザインの「かわいらしさ」がヨーロッパの観客にはかえって理解しづらい面があるかもしれないとのこと。しかしながら、関口の「キャラ感」の強いスタイルは個性という武器になるかもしれないといいます。デザインに象徴性を与えるなどして造形に意味合いを持たせることで、ヨーロッパの観客も飲み込みやすくなるのではないか、とのことです。また、関口は語るべきテーマを沢山持っているアーティストなため、長めの作品に挑戦してみることをゆくゆくは検討してみてもいいかもしれないと今後の展望にも話題が及びました。
今後は、6月のアヌシー国際アニメーション映画祭でのピッチ(新作企画のプレゼンテーション)に向けて、企画開発が本格化していきます。今回の面談を通じて明らかになった現状の課題を乗り越えるべく、各採択アーティストたちは取り組んでいきます。