新潟国際アニメーション映画祭レポート:金子勲矩

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金子勲矩

新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)は、長編アニメーションを主とした映画祭で、今年で3回目の開催です。長編アニメーションを主とした映画祭は世界的にも珍しく、私自身も以前から興味があり、期待を膨らませながら参加しました。

会場は、新潟駅の近く、万代橋を挟んだ2つのエリアに分かれて点在していました。地図上では会場同士が離れていたため移動に多少の不安がありましたが、頻繁に路線バスが行き来していたため支障はありませんでした。期間中は毎日、映画祭についての日報が発行されており、作家へのインタビュー記事や作品への批評を読むことができました。最終日発行の記事に自分が写った写真を見つけたときは映画祭をさらに身近なものに感じました。こうした日報を読むのも掲載されるのも初めての経験で新鮮な驚きがありましたが、担当者によると一昔前はこのような日報を発行していた映画祭が多かったそうです。この日報の発行が今後も続くことを願っています。

今回は、「NeW NeW」の一環として、同プログラムに採択された、ひらのりょう氏、関口和希氏、私の3人で参加しました。午前中は審査員などのトークを聞き、午後は作品の鑑賞や作家とのミーティングや交流会に参加するというスケジュールでした。開催期間6日間のうち、仕事の都合で3日間のみの参加となりましたが、非常に濃密な時間を過ごすことができました。

トークは、クリスティアン・パヌシュカ氏、ルパート・ボッテンバーグ氏、松本紀子氏の3名のトークに参加しました。パヌシュカ氏のトークでは、最初に同氏が制作した長編アニメーション『一族の血脈」を鑑賞し、そのあと作品についてお話を伺いました。この作品は、同氏が遺伝病の診断を受けたことをきっかけに制作した実験アニメーションで、赤血球、骨、祖母たちのイメージが絡まりあう家族の血脈に関する作品でした。当初は、15本の別々の短編映画とする予定だったそうですが、結果的には1つの長編映画として完成したそうです。

ボッテンバーグ氏は、カナダのモントリオールのファンタジア国際映画祭でプログラマーをしておられ、ファンタジア国際映画祭の歴史と日本のアニメーションの関わりについて教えてくださいました。同映画祭は日本を含むアジアのジャンル映画を北米に向けて紹介する目的で始まり、徐々に多様な作品を扱う映画祭へと転換していったことや、今敏監督や三池崇史監督の作品を北米へいち早く紹介した映画祭であることが語られました。ボッテンバーグ氏は、以前DJとして活動されていたようで、映画祭のプログラマーはDJと似ていて、観客に楽しい時間をすごしていただけるような良いプログラムをつくるのだ、と熱く語っていました。

松本氏は、コマ撮りスタジオ・ドワーフのプロデューサーをされています。ドワーフの歴史と、プロデューサーの仕事についてお話いただきました。「プロデューサーは作品を作る環境を整え、作品を完成させるための全体的な責任を負う仕事だ」とおっしゃっていたのが印象に残りました。とにかく決めることが大切で、迷って決定を先延ばしにしている時間はもったいなく、その時々の最善と思う選択肢を選び、誤りを恐れずにトライ・アンド・エラーをする、という言葉にプロデューサーの仕事に限らないものづくりの真髄を感じました。今後、心にとめておきたい言葉だと思いました。

トーク以外にも、現代美術作家のスン・シュン氏やアニメーション監督のアダム・エリオット氏とお話しする機会がありました。スン氏は、墨を使って絵画やアニメーションなどの作品を制作されており、影響された画家に、日本の白隠慧鶴と仙厓義梵を挙げていました。この2人は、墨で自由でおおらかな絵を描く画家ですが、スン氏は、2人の絵から技術ではなく魂で絵を描く大切さを感じたそうです。「最短距離で魚屋に行けば魚が手に入るが、迷いながら到着したら町全体の地図が手に入る」というたとえ話もされており、スケジュールや計画を立てて技術的にうまく作品作りをするよりも、その時の自分の心の声を聴き行動し切り開いていくという姿勢の大切さについて話していただきました。

エリオット氏は、『メアリー&マックス』『かたつむりのメモワール』などのストップモーションアニメを制作したアニメーション監督です。自身の作品制作、特にストーリー作りの進め方について伺いました。作品のアイデアは、自身の周囲にいる人々にまつわるエピソードと、普段から作っている、いわゆるネタ帳をもとにしているそうです。ネタ帳から作品に入れたいものをリストアップしていき、点と点を結び付けるようにストーリーをつくっていくそうです。同氏は、「闇なくして明るさは見えない」という言葉を引用して語っていましたが、喜劇と悲劇をジェットコースターのように交互に配置して、ストーリーが平坦にならないようにバランスを考えて書いているとのことでした。脚本は映画制作の最も大切な部分とのことで、最新作『かたつむりのメモワール』は制作期間8年間のうち、3年間は脚本に費やしたそうです。

NIAFFには「新潟アニメーションキャンプ」というプログラムがあり、その一部として開催された「コンペティション作家との交流会」にも参加させていただきました。それぞれのコンペティション作家を、キャンプの参加者と私たち3人で囲んでお話しをする形式で、切り紙でアニメーションを製作されているエリック・パワー氏には、実際に撮影に使用した人形を見せていただきました。人形は予想よりも大きく、また背景とは別々で撮影して後で合成しているとのことでした。遠景用に小さな人形も別に用意していることや、関節は軸や紐で固定するのではなく、自由に動かせるように練りゴムで留めているとのことでした。切り紙だけでなく砂絵を背景に使用し画面に別の感触を加えていているというこだわりもあるようです。長編アニメーション以外でも、思いついた様々なアイデアを切り絵で制作しているようで、短い動画や料理を切り絵で作るプロジェクトなどを見せていただきました。切り紙という手法をとても気に入っているようで、いろいろな作品をとても楽しんで制作されているようでした。

NIAFFではアニメーションの第一線で活躍されている、国内外のクリエイターから話を伺え、3日間しか参加していないとは思えないほど濃密な時間を過ごすことができました。「作品作り」と言っても、作家やプロデューサー、プログラマーまで作品との関わり方は非常に多様であり、アニメーションの世界の広さを改めて実感しました。作家として実際に手を動かして創作する際の考え方も、その時の気持ちや衝動を大切にするやり方やきっちりと計画してすすめるやり方などさまざまで、私自身の制作について内省するきっかけとなりました。最後はそれぞれの作家が自分のやり方を突き詰める、ある種の深さも必要だと感じ、私もこれから模索を続けていこうと思いました。