レクチャー「第一期公募枠作家たちはいかにして新作をブラッシュアップし、ピッチしたか」レポート

コピーしました

この記事を共有

執筆・編集
土居伸彰
登壇
ひらのりょう
関口和希
金子勲矩
司会:土居伸彰

2025年6月30日(月)、NeW NeWスクールの一環として開催されたオンライントークイベント「第一期公募枠作家の視点から振り返る、2025年ザグレブ&アヌシー報告」。その第二部「第一期公募枠作家たちはいかにして新作をブラッシュアップし、ピッチしたか」では、第一期公募枠作家(金子勲矩、関口和希、ひらのりょう)たちが自らの視点からこれまでの公募枠作家としての活動について振り返りました。第二期公募募集期間中にあわせ、レポートを掲載します。司会はNeW NeWプロデューサーの土居伸彰です。第二期公募は2025年7月18日(金)17:00まで応募を受け付けています。詳細は募集要項ページをご覧ください。

2024年11月:応募

土居伸彰
まずは「応募」から始めましょうか。僕の考えでは、応募の段階からある種のトレーニングをしていると考えているからです。応募のためには、新作の企画が必要で、さらにはポートフォリオおよび「企画書」を日本語と英語、両方で提出するようにお願いしました。これは、ヨーロッパ式の売り込みのためには英語の企画書が必須ですし、アーティストとしてのユニークさをプレゼンテーションできなければいけないので、応募する作業を通じてそういった最低限の部分をクリアしてもらうことを考えていたからです。皆さん、応募にあたって特に気をつけたことってありますか?

金子勲矩
僕はそもそも自分の経歴を書類にまとめる経験があまりなかったので、まず最低限の情報をきちっと載せること、そして自分の作った作品を改めて整理して、きちんと書類にまとめるという点に一番気をつけました。

関口和希
私は応募をギリギリまで迷っていて…子供もまだ小さいし、本当にできるのかなって。結構短期間で作ったんですけど、とにかく「見やすく」ということを心がけて書きました。企画はなんとなく頭にあったので、それをできる限り一本の作品としてまとまっているように見せるために、絵コンテも急いで描いて送りました。

ひらのりょう
いや、全く一緒ですね(笑)。「どうしようかな、やろうかな…でもな」っていうのをずっと繰り返してて、僕の場合は本当に最終日ギリギリに「ダメもとでやるか」という気持ちで応募しました。頭の中には「こういうのを作ってみたいな」っていうのがふわっとあって、それを企画書にするのは正直初めてだったんですけど、土居さんが「こういう見本となる企画書を出してください」ってアナウンスしていたじゃないですか。

土居伸彰
ああ、そうですね!今ウェブでも読めますけど、「企画書の書き方」という記事で、過去のニューディアーのプロデュース作品の企画書を作家さんの許可をもらって例として出しています。応募する方はぜひ参考にしてください。

ひらのりょう
はい、それを本当にそのまま参考にして作らせてもらいました。

2024年12月:オンライン面談

土居伸彰
応募していただいた後に、オンライン面談をしました。今回の事業は、海外進出のためのものなので、日本人だけで選んでもしょうがないだろうと思いまして、選考のプロセスのなかに海外の映画祭関係者やプロデューサーに「アドバイザー」(アドバイザーのメンバーについてはNeW NeW公式サイトにてご確認ください)として入ってもらいました。アドバイザーには皆さんの応募した書類を見てもらい、それをもとに応募者一人当たり2回、30分程度のオンライン面談に参加してもらいました。毎回、3~4名のアドバイザーの方々から質問を受けて、それに対して答えて、自分自身もプレゼンテーションしていく形だったんですけど、このオンライン面談についてはいかがでしたか?

金子勲矩
そうですね。僕、オンライン面談2回ありまして、ほぼ全員、海外の方で、提出した企画書とか資料をもとに、それぞれコメントをいただいたり、疑問に思うところを聞いていただいたりという形で進みましたね。面談だけでも、自分の企画に対して海外の人がどういうことを疑問に思うのか、どういったことをさらに追加していかなければいけないのか、というのがわかるような内容でした。

関口和希
最初にミニプレゼンをする必要がありまして、その原稿を作りました。最初にまず自分で思いの丈をいっぱい書いたものを、ちゃんと規定の分数に収まるかなっていうのを測りながら調整して、それをその紙を見ながら英語で…英語でしたよね?

土居伸彰
あ、日本語ですね。面談は逐次通訳がつきます。

関口和希
あ、そうでした(笑)!面談はすごく緊張しました。結構皆さん真顔だったので「大丈夫かな…」と思いながらも、勇気を持って喋りました。

ひらのりょう
僕もオンライン面談というもの自体が初めてだったので、めちゃくちゃ緊張していて、わりと記憶が曖昧な部分があるんですけど(笑)。時間帯的に、僕の枠だとヨーロッパの時間帯で考えるとおそらく今日何人目かぐらいで、多分疲れてるんだろうなっていうのもわかるから、それを加味しつつ、その表情を気にしないように「皆さんお疲れのところ聞いてくださってるな」と思いながらやった記憶はありますね。

自分が用意した原稿を読み終わったあと、企画についての質問をされました。そこは事前に想定できない部分でした。「こういうものが作りたい」というものはあったからしっかり喋れたとは思うんですけど、あの海外関係者ならではの鋭いツッコミが入ると思った方がいい気はします。

土居伸彰
面談への参加もネットワーキングの一環として実は考えてました。アドバイザーのみなさんに企画書を読んでもらって、ポートフォリオをみてもらって、質問を考えてもらって……っていうことをしているので、たとえ採択されなかったとしても、多分どこかの頭の片隅には残ると思うんです。なるべく多くの方々に、そういった主要な方々、主要な関係者とマンツーマンで話せる機会を作る、ということを通じて、面談も含めたトレーニングプログラムができてるなという風に思っている感じです。

2025年2月:脚本の執筆・改稿

土居伸彰
実際に採択された後、皆さんがメインでやってきていることのほとんどが、脚本の執筆・改稿ですよね。これって、日本の短編アニメーションの伝統的な作り方とかなり相反するところがあるんじゃないかと僕は思っていて。日本人の作家さんって、「企画、こんなのを作りたいです」って売り込みをする機会がない、そもそも売り込める場所がないので。でも、海外のプロデューサーを捕まえるためには、脚本ってすごく大事なわけですよね。それによって、文字脚本によってどんな作品を作るのかってところを把握する、というところがあるんです。

もちろん、抽象的な作品だと文字脚本は必要なく、絵コンテやVコンで代用できたりもするんですが、今回の作家さんたちは物語性のある作品を作っていたので、まず脚本をやりましょう、ということをしました。実は金子さん、関口さん、ひらのさん、みなさん全然ステータスが違うんですよね。金子さんは実はもう作画も始めているというか、まあ、作画しながら内容も考えていく、という形。おそらく日本だとそういう作り方をする人も多いと思うんですが、金子さんには今回、作画済の内容も含め、一旦文字脚本の方に起こし直してみましょう、そこからまたブラッシュアップしましょう、ということをしてもらいました。関口さんは絵コンテもあったんですけど、様々なフィードバックをベースに、もう一回、本当に大幅に改稿してみましょう、ということをしました。で、ひらのさんに関しては何もなかったので、ゼロから書きましょう、というふうになった、というところで。

で、6月のピッチの段階では、皆さん、プロデューサーたちがいつ来ても大丈夫なようなレベルまで、脚本を書いていったわけなんですけど、この脚本を書いていく、しかも僕との間で密にやり取りしながらやっていくプロセス自体っていうのは、多分あんまりこれまでなかったと思います。実際やってみてどうですか?

関口和希
私は文章を書くのが好きなので、今まで自分で作品を作る時も文章から書くことはあったんですけど、一人で作っているとフィードバックってもらえないじゃないですか。今回のように粘り強く何度も直すっていうことがほぼなかったので、新鮮でした。

土居伸彰
関口さんは7稿まで行きましたよね?

関口和希
8稿ですね。これまでは「テキストが書ければ何でもいい」みたいな感じだったんですが、いまは有料版のWordを使って、脚本のフォーマットに沿って書いてます。

ひらのりょう
もうひとつ言っておいたほうがいいこととして、採択者の3人のあいだで、脚本のプロセスは全部シェアしている状態であるということです。第1稿を見られるキツさというのが間違いなくあるので、最初は「何考えてんだ」と思って(笑)。でも、全員でプロセスを共有して、ときにはお互いにフィードバックをしあう会を設定してもらうことで、それぞれの視点で「こういうところが気になる」と指摘し合うことで見えてない部分がどんどん見えてきて、どんどんやりやすくなっていきました。最初は抵抗ありましたが、いまはかなり楽しくできています。「ここがちょっと気になるんだよね」って人に相談すること自体を、抵抗なくできるようになりました。

金子勲矩
先ほど話があった通り、僕は絵コンテから書き始め、実際に作画しながら「この先どうしようかな」って考えるっていうプロセスでやってきたので、文字で脚本を書くこと自体がこれまでまったくなかったんですよね。今回、現状のビデオコンテから、逆にその脚本を文字で書き出すことをしました。文字にしてみると「こことここは、逆の方がいいんじゃないかな」とか、「ここでこうなるなら、もっと前にこういうシーンがあった方がいいな」みたいにアイデアが生まれてきたりして。全体を俯瞰するような、レントゲンで骨組みを見るような、作っている作品を、今までとは違う、フレッシュな視点で見ることができて、すごくいい経験でした。

土居伸彰
短編アニメーションは一人で完結して作れてしまうのですが、今回、あえていろいろな人の目を通じて、さまざまなパースペクティブから眺め直してみる経験をしてもらいました。そういった過程を経ることで作品は強くなっていくなっていうのは、僕自身がプロデュースをやっていて思っているところでもあったりするので。

ただ、これまで僕はいろんな作家さんをプロデュースしてきてはいるものの、実はこんなにちゃんと脚本段階でやりとりしたこともあまりなくてですね。今回、完全に偶然なんですが、物語やキャラクターが大事な作家さんが揃ったこともあると思います。ジャンル映画的な特性を、みなさんどこかしら持ち合わせている。これまでの日本の短編アニメーションっはどちらかというと、感性で組み立てられるタイプのものが多かったんですが、今回の3名は、そういう美点は残しつつ、物語・キャラクターを見ても面白いという、日本の短編アニメーションにとっても、多分、新しいタイプのものになるんじゃないかなと僕自身も今思っています。

2025年3月:新潟国際アニメーション映画祭への参加

土居伸彰
6月のヨーロッパツアーの前哨戦ではないですが、3月に新潟国際アニメーション映画祭に参加してもらいました。NeW NeWのプログラムをやるのではなく、本当に一参加者として参加してもらいまして。新潟アニメーションキャンプという日本とアジア圏の若者たちを対象にしたプログラムがありまして、その中に特別参加枠として混ぜてもらった。また、滞在中にはゲストとして来ていた「かたつむりのメモワール」のアダム・エリオット監督や、現代美術の領域でも活躍しているスン・シュン監督にインタビューもしてもらいました。新潟の経験はいかがでしたか?

関口和希
全体のスケジュールを聞いた時に、6月のヨーロッパツアーがすごい大変だと思っていたので、新潟は軽く考えていたというか(笑)、「まあなんとかなるだろう」みたいな感じだったんですけど、スン・シュンさんのインタビューはとても緊張しました。土居さんに「追い詰められた目をしている」と言われるくらいに。

ひらのりょう
目的に「社交」って書いてあって……「ふだん山にこもって生活している僕にそんなことを言われても…」と、泣きながら行った記憶があります。「もう帰りたい」って(笑)。でも行ってみたら、映画祭自体がとても雰囲気が良くて。上映後のQ&Aなんか、日本の映画祭でこんなにバンバン質問出るんだってくらいにたくさんの質問が出たり。そんななかで僕達自身も積極的に参加してみる経験をしまして、するとどんどんそのいろんな知り合いができて、最終的にはめちゃめちゃ楽しかったですね。アニメーションキャンプで知りあったタイの女性が、ちょうどバンコクで「サイアムアニメーションフェスティバル」を立ち上げようとしているという話を聞いていたんですが、そのスタッフの子たちがザグレブやアヌシーに来ていたのでそこでまた仲良くなったり……新潟から友達作りの輪が広がっていった。

金子勲矩
コンペが長編のみの映画祭にネットワーキングに行くということで、もっとビジネスライクな感じをイメージしていったらそんなことはなくて、雰囲気が柔らかいなというのがまず第一印象でした。インタビューで巨匠の方々と話すのはすごく緊張しました。でも話してみれば、向こうからむしろいろいろと話してくれて、勉強になりました。

新潟国際アニメーション映画祭でのアダム・エリオット監督との対話

2025年4月〜:個別専門家による指導(金子勲矩)

土居伸彰
金子さんは他の2人に比べて、作画も進行している段階だったので、ビジュアル面のトレーニングも先んじて取り組んでもらいました。金子さんはアナログ素材の作画をしていますが、コンポジット(撮影)の部分でもう少しクオリティをあげられるのではないかと思い、アニメ業界を代表する撮影監督の泉津井陽一さんに3度の指導を受けてもらいました。

金子勲矩
これまではアナログで背景とキャラクターを別で作画して、それをコンピューター上で合成して少し色調整する程度だった。しかし、どうしてもキャラクターが浮いて見えてしまったり、画面の焦点が定まらなかったりといった悩みを抱えており、全体の雰囲気ももう少し良くできないかということを考えていました。指導を通じて、コンポジット作業を工夫することでそういった悩みを解消できるような変化を生み出せることがわかりました。

泉津井さんご自身は、元の絵をエフェクトで大きく変えていくタイプではなく、絵の質感を活かした、さりげないけれども効果的なエフェクトの掛け方をしてくださる方でした。カメラに詳しい方で、「背景をぼかしすぎると接写してるように見えちゃうから、もっと抑えた方がいい」みたいな具体的なお話しをしていただきつつも、最終的にはその作品の雰囲気・画風・演出が大事なので、あまりカメラの再現にとらわれすぎない方がいいっていう話をしていただきました。現場で第一線でやっている方と話す機会があったおかげで、ソフトウェアの使い方だけでなく、コンポジット作業における基本的な考え方や心構えが勉強できました。

土居伸彰
さらに、山村浩二さんに背景の話を聞きに行くこともしました。

金子勲矩
泉津井さんとのやりとりをしているうちに、コンポジットだけじゃなくて、そもそも背景の描き方や、背景に対するキャラクターの置き方についても誰かに話を聞く機会があったようがいいんじゃないかということで、山村浩二さんに実際の作品の背景の原画を見せていただきつつ、いろいろお話しをお聞きしました。

土居伸彰
作家さんの特性に沿って、この分野で専門家の話を聞いてみたらどうかという提案をさせていただいて、作家さんの方で「ぜひそれを見てみたい」ってことがあったら、マンツーマン指導をしていただく、ということもチャレンジしたわけです。

山村浩二監督によるアドバイスの様子

2025年6月:ピッチ

土居伸彰
ピッチは、アヌシー(MIFA)のPartner Pitchという枠で、「Japanese Short Animation: New Way, New World」
というプログラムを用意しました。売り込みをするにあたり、いつ問い合わせがあってもいいように、まず企画書を作ることもやってもらいました。応募の際の企画書をバージョンアップ、ブラッシュアップするようなかたちです。

海外のプロデューサーから問い合わせがあったときに、作品や作家の概要を一望できるものとして、企画書はとても重要です。基本的な構成としては、メインビジュアル、シノプシス/基本情報、作家のステートメント(制作意図・動機)、ストーリー、キャラクター紹介、ビジュアルデベロップメント、インテンションノート(技術・演出面の特徴)、テストアニメーション、作家プロフィールを入れることが多いです。企画書の目的は、これを読むことによって「こういう作品なんだ」というビジョンがクリアに共有できるようになる、ということですね。同時に、作品のユニークさを売りになるところを、しっかりと凝縮して詰めていく。みなさん生成AIをうまく活用しながら文章作成や翻訳をしていました。

実際のピッチの経験はどうでしたか?

ひらのりょう
そもそもピッチがどういったものなのかまったく分かっていなかったので、土居さんにフィードバックをもらいながら、何回も改稿していきました。一人当たり10分という時間が決まっていたので、そこに収まるような形で、英語への翻訳はChatGPTも使いながら行っていきました。

土居伸彰
構成としては、まず最初に自己紹介がある。

ひらのりょう
過去作品の抜粋を見せるなどして「こういうの作ってますよ」というのをいくつか見せつつ、作家性として「人間と人間ではないものの関係性」について物語を語っている人間であるというのを説明しました。

それをふまえて、新作『NIGHT IN THE EYEWALL』の話に入りました。あらすじの説明を、ビジュアルを見せながら語っていく。その後、「自分がなぜこの作品を作ろうと思ったか」を話すため、自分が東京から長野に移住したことを、住んでいる場所の写真を見せながら説明しました。作品を作るきっかけとなった自分の経験として、山の中で道に迷ってた時に鹿に囲まれたという出来事があったんですが、そのときにスマートフォンで撮影していた映像を見せました。「ここの感覚をアニメーションにしたいんだね」っていうのが割と伝わった気がします。

その後は、山の中の旅館を物語の舞台にしたことについての自分なりの問題意識や社会的な意識も含めて、かっちり原稿を作って説明しました。また、テクニカルの部分は、Blenderを使った、アドベンチャー的な動きのある作品にしたいということで、テスト映像をいろいろ見せました。「2Dの作画と3Dの背景をマッチさせつつ、追いかけっこみたいな楽しい映画になります」っていう説明ですね。最後に、この作品を通じてどういうことを僕が伝えたいのか、観客や社会にどういうポジティブな影響を与えるかを最後に伝えました。

そして、連絡先のQRコードを出して、「とにかく誰でもいいから連絡をしてくれ」と伝えました。「このQRコード、全員今すぐスキャンしてくれ」って。そのおかげか、ピッチのあとに結構連絡をもらいまして、配給業者の方とはミーティングもしました。

ピッチの経験で言うと、最初ChatGPTに翻訳してもらったのって、僕の知らない単語もあって、それを実際に口にしようとすると、自分の言葉じゃなくなっちゃう。そこで、中学生英語でもいいから自分の知っている言葉に直して自分が言いやすい言葉にしちゃった方が、緊張もしないし、実際に見ている人と実際に目を見て喋れる余裕もできてくるっていうので、原稿も当日までに変えたりしながら調整もして、本番に臨みました。

ひらのりょうによるアヌシー(MIFA)でのピッチの様子

関口和希
私はまず10分間のプレゼンの叩き台をChatGPTに作ってもらって、その後はExcelを使って全体の原稿を考えました。エクセルを使うと一覧性が高くて、入れ替えがしやすかったです。そして話す内容を固めてから最後急いでたくさん絵を描いて、パワポにはめ込むというやり方で作りました。

でも、現地でシミュレーションをしてみたら、机の上で考えた原稿だと伝わらないのではないかと思い、現地コーディネーターの方に手伝ってもらって、ピッチに適した文章に全て書き直しました。作家としての特徴は、「自分の経験をもとにした作品づくり、とりわけ悪い思い出をモチーフにしている」ということを伝えました。

あとはとにかくビジュアル資料をたくさん作って入れていこうという方針にしました。キャラクターデザインを説明するページを入れたり。テストアニメーションは限られた時間内で一生懸命作ったのでベストを尽くしたっていう気持ちなんですけど、できれば音が入ってたらもっと良かったなっていうふうに思いました。

あと、地味にやったこととしては、自分のウェブサイトを全て英語対応にしました。WordPressにサイトを多言語対応させられるプラグインがあったので、それを使って作りました。

関口和希によるアヌシー(MIFA)でのピッチの様子

金子勲矩
僕の場合も作り方やプレゼンの構成は他の2人とほぼ同じです。まずエクセルを使って全体のスライドの構成と話す内容決めて、ビジュアルや文字要素を当てはめていくやり方です。構成で気をつけたのは、今回の新作が過去の作品からの発展のうえにある、ということをわかっていただけるようにすることです。つまり、過去作一作ごとに新たなチャレンジをしてきていて、今回の作品ではこういうチャレンジをする、ということです。

企画はそのまま説明するとややこしくなってしまいそうでしたので、まず大まかなストーリーをつたえ、具体的な内容はキャラクターの説明を通じて詳細を伝えていくようにしました。そのうえで、コンセプトなどの抽象的な話に移ります。。最後に、2Dのアナログで作画するといったという技術的なことを伝え、かつコンポジットに凝っていくことを、泉津井さんの話も入れてしました。泉津井さんに手を入れていただいたカットのビフォーアフターを見せたりしました。

最後にはコンタクト情報を入れたんですが、ちょっと後悔が一つあって、僕もQRコードを入ればよかったと思いました。ただ、そのときにはすでにプレゼンの提出締切が過ぎてしまっていましたので、諦めざるをえませんでした。

金子勲矩によるアヌシー(MIFA)でのピッチの様子



土居伸彰

ピッチ後の反応についてもお聞きしたいのですが、ひらのさんは、ピッチにあわせて自分自身のソーシャルメディアでも、出し惜しみをせずにテストアニメーションやビジュアルを投稿したことで、オンライン上でも反応があったと聞きました。

ひらのりょう
はい。ピッチ終わったタイミングで、InstagramとXにアップしました。アヌシーの期間中、どういう仕組みか分かんないですけど、Instagramに、アヌシーに来ている人のフィードがめっちゃ出てくるようになって。おそらく位置情報の共有をしていたからだと思うんですが。であればオンラインにも早めに出しちゃった方が期間中に引っかかりやすいのかなと思って。Xではフランスの有名アニメーション情報アカウントに拾われて、めちゃくちゃ広がりました。Instagramもいまテストアニメーションの再生回数がかなり回ってまして、今フォロー数がとても増えている状態です。

土居伸彰
ツアー中、ザグレブ国際アニメーション映画祭パリ日本文化会館で上映イベントもやりました。そこで関口さんは、自作の「コメディ要素」のポテンシャルを感じたとか。

関口和希
そうですね。ザグレブやパリで「死ぬほどつまらない映画」という過去作の上映をしたところ、かなり会場の受けが良くて、笑いの力は素晴らしいと思いました。

土居伸彰
金子さんは、ピッチにおいて、あまり想定していないキャラクターへの反応があったとか。

金子勲矩
そうですね。新作には「うさぎの毛を集めてうさぎに擬態するカニの怪物」というキャラクターが出てくるんですが、ピッチでそれに言及するととても反応があって。ピッチ以外で個別に話しているときもやはりすごく反応がよく、面白がってもらえて、すごく嬉しかったです。

パリ日本文化会館での上映イベントの様子

最後に:映画祭にはこれを持っていけ&公募枠応募のオススメ

土居伸彰
映画祭に参加するにあたって、「これ準備してて良かったな」だとか、もしくは、「これを用意しとけばよかったな」みたいなことってありましたか?

金子勲矩
今回のツアーでは、自分の作品のビジュアルとプロフィール、QRコードも入れたDM(ポストカード)を各自作って持っていったんですが、本当に作ってよかったなって思いました。「どんなの作ってるの?」って話しかけられたときにビジュアルが見せられるとすごく話しやすい。NeW NeWでもツアー中のスケジュールと会場がまとまったDMを作ってもらったので、お誘いもしやすかったです。

ひらのりょう
DMはすごく役に立ちました。僕はさらに個人的にステッカーを作って配ったりもしました。あと、常にiPadと自分の作品集も常に持ち歩いていました。過去の作品やテストアニメーション、メイキングもパッと見せられる。

関口和希
私も皆さんが言うように、DMには何度も助けられました。とりあえずこれを持っていれば、喋ることがないみたいなことはないので。これあったらよかったなぁと思ったのは、そもそもの話ですけど、英語力。特にリスニング能力がもっとあれば良かったなと思って。でも、ツアー期間長かったので、だいぶ鍛えられた感じはあって、すごくそれは良かったです。

土居伸彰
今回長旅でトラブルにもいろいろ見舞われてしまったのですが、長旅を乗り切るサバイバルという観点からなにかありますか?

ひらのりょう
ちゃんと泣き言を言い合えたことが、すごいよかったです。「めっちゃ辛い、帰りたい」っていうのを言葉にして、お互いに「そうだよね」って励まし合えた。根性で乗り切るんだ、みたいな方向だったら多分心が折れてたかもしれない。悩んでるの僕だけじゃないんだと思うと、かなり気が楽になりました。

金子勲矩
暑かったので、着替えをたくさん持っていったのがとても良かったです。毎日着替えられるっていうのはすごく快適だった。あと、レトルトの味噌汁でしょうか。まあ、ホテルでお湯を手に入れるのも大変でしたが。

関口和希
とにかく暑い、というのは本当にすごく思って。帽子は現地調達したんですけど、物価も高いので、日本から帽子を持っていけばよかったって。あと、思った以上にホテルの部屋に何もなかった。お湯もフロントに行かないともらえないし、電子レンジもなかった。小型の電気ケトルを持っていけばよかったなと思いました

土居伸彰
最後に、これから応募しようと思ってる方々に、NeW NeWをおすすめしてください。

ひらのりょう
アドバイザーの方からのフィードバックがかなり丁寧だったりだとか、とにかくこのプログラムは、いろんな人の目を通して自分の作品を見る機会をもらえたり、同期の採択者のアイデアに触発されたり、知識をシェアできる場所になっています。一人で作るぞっていう気持ちはもちろんありながら、いろんな人と力を合わせられる場所でもある。だから自分には社交性がないなって思ってる人も、参加してみてください。意外と「楽しい!」ってなれるんじゃないかなと。

関口和希
私も社交がとても苦手で、最初のうちは「ネットワーキング」っていう文字を見るたびに怯えてましたが、回数を重ねるにつれてどんどん慣れてくる感じがあって、場数を踏むっていう点でも、最高の機会だなと。一人で作っていると未来がないって思ってしまうことってあると思うんですが、そういう人こそ応募した方がいいと思います。

金子勲矩
海外の映画祭にいくつも回れて、なおかつ行った先で誰と会うかもセッティングしてもらえます。自分だけで映画祭に行くよりも、かなり濃密な体験ができるんじゃないのかなと思います。制作に関しても、第一線で活躍されているアドバイザーの方からの意見もいただけて、かなりリッチだなというふうに僕は思います。


関連作家