第三期公募枠アーティスト・岡田詩歌インタビュー
- 取材
- 田中大裕
- 構成
- 塚田優

アニメーションに興味を持たれたきっかけは?
岡田詩歌(以下、岡田) 7歳上の兄(編集註:岡田和音)が武蔵野美術大学で映像を学んでいて、そこで友人たちと「賢者」というグループで活動していました。その活動や作品を中高生のころから見ていて、面白そうだと思ったのがきっかけです。
大学はアニメーションを専門に教えているところではなく、東京藝術大学の先端芸術表現科(以下、先端)に進まれました。先端ではどんなことを学びましたか。
岡田 高校時代は写真を撮っていて、写真の道にも惹かれていたのですが、一方で兄の影響で映像にも興味を持っていたので、様々な表現に挑戦できる先端を選びました。メディアアーティストの八谷和彦先生のゼミに入って、コンセプトを設計して制作に取り組むことを学びました。
大学院は先端ではなく、同大学の映像研究科アニメーション専攻(以下、アニメーション専攻)に進まれます。アニメーションを本格的に学びたいと考えた?
岡田 先端では技術よりも、作品が評価される枠組みや文脈、コンセプトの重要性を教えてもらいました。一方でアニメーション制作については独学だったので、技術的なことを一から学び直したいと思ったんです。
また、学部時代はインスタレーションとして作品を展開していたので、シングルチャンネルで完結する作品の設計し方を学びたいとも思い、アニメーション専攻を選択しました。3年生の時、アニメーション専攻が学部向けに開講している短期間の講義があり、山村浩二先生らアニメーション専攻の教授陣が持ち回りで担当されていました。その授業の内容が興味深かったことも決め手のひとつです。
アニメーション専攻時代の指導教員は、どなただったのでしょうか。
岡田 大学院に入ってから、実際に手を動かすプロダクション工程の前段階──企画開発について掘り下げて学びたいという考えから、岡本美津子先生のゼミを選択しました。学部・院を通じてコンセプトを注意深く検討してから制作に進む重要性を学び、それは現在の自分の制作スタイルにも影響を与えていますね。
ちなみにアニメーション専攻時代の同期には、どういった作家がいらっしゃいますか。
岡田 私は11期にあたります。副島しのぶさんは先端のころからずっと一緒です。他には若林萌さんや石館波子さんがいます。
制作で使用されているツールは?
岡田 基本的にProcreateやPhotoshopで作画を行い、Premiereで編集を行っています。ただ部分的に紙に描いたり、クレイなどのアナログな素材を使うこともありますね。
作品を制作するうえで特に大切にされている部分は?
岡田 独りよがりにならないよう、観客がどのように感じるかを常に意識しています。とはいえ、制作にのめり込んでしまうと客観的に見られなくなってしまうこともあります。制作に熱中することと客観的な視点を保つことのバランスには、いつも苦労しています。なので途中で家族に観てもらうなど、立ち止まって他者の視点を取り入れることも大切にしていますね。
制作で最初に着手することはなんですか。
岡田 作品の種になる自分の経験やテーマを、文章化することから始めます。そこから発展させて字コンテを書き、それを元にビデオコンテに進みます。その過程でビジュアルも徐々に固まってくることが多いです。
ご自身の創作上の関心をどのように自己分析していますか。
岡田 恋愛やジェンダーをテーマにすることが多く、そこは意識的です。作品ごとのテーマと自分の経験がリンクする部分を常に探っています。
『Journey to the 母性の目覚め』(2021)あたりまではセルフドキュメンタリー的な作品が多かったんです。ですが、『恋脳 Experiment』(2023)で実写映画の脚本を書いたことによって、単に私自身を描くのではなく、フィクションとして膨らませることも考えるようになりました。
岡田さんの作品はシリアスなテーマを扱っていても語り口はユーモラスですね。
岡田 そうですね。ユーモアは常に大事にしています。重いテーマを扱うことが多いので、単に深刻に描くのではなく、観る人のとっかかりになるような設計を意識するようにしています。
影響を受けた作家や作品を教えてください。
岡田 現代美術作家のソフィ・カルに影響を受けてます。アニメーションですと、高畑勲監督の作品です。特に『おもひでぽろぽろ』(1991)は私のバイブルです。現在と過去を行き来する構成は、自分の作品にも強い影響を与えています。またオフビートな笑いという点では、森田芳光監督の作品からも影響を受けていますね。
これまでのキャリアを振り返ってみて、転機となった作品は?
岡田 『卒制彼氏三部作』(2018)です。学生CGコンテスト(現・Next Young Artist Award)で優秀賞を受賞することができて、自信につながりました。同作は結果的に『恋脳 Experiment』の物語のベースにもなっています。
『ワンダフル千鳥足 in ワンダーランド』(2019)はザグレブ国際アニメーション映画祭(以下、ザグレブ)で学生部門に入選するなど、国際的にも高く評価されました。海外の映画祭はいかがでしたか。
岡田 ザグレブの学生部門にノミネートされたときは、ゲストハウスを提供していただけました。学生たちはそこに滞在したので、そこで交流を深めることができました。今でもその時に知り合った作家と連絡を取ったりしています。また、ザグレブで記憶に残っているのは、VR部門の作品です。市街地の古いトンネルが会場になっていて、暗闇を抜けていった先にVR作品が置かれていて印象的でした。ザグレブではいたるところでアニメーションが流れていました。街全体が映画祭の舞台になっていて新鮮でしたね。
ザグレブに入選するまでは、自分の画力にコンプレックスを感じていました。アニメーション作家には抜群に絵が上手い方が多いですから。しかしザグレブに選んでいただいことで、絵だけではなく、物語でも勝負できることを確信できたのが、その後の自信につながりました。
岡田さんはアニメーションと並行して実写映画に取り組まれているのも特筆すべき点かと思われます。実写長編『恋脳 Experiment』を制作された経緯をお聞かせください。
岡田 『Journey to the 母性の目覚め』が第43回ぴあフィルムフェスティバル(以下、PFF)で審査員特別賞を受賞しました。それでPFFスカラシップ(現・PFFプロデュース作品)に応募する権利を得たんです。以前から実写に興味があったのですが、人手も要りますし、ハードルの高さを感じていました。ただこういう機会でもないと実写に挑戦するチャンスもないと思い、思い切って応募しました。
アニメーションと実写の違いを、制作者の立場からどのように感じられていますか。
岡田 例えば制作中の新作では犬が大量に出てくるシーンがあります。実写だと実現可能かどうかも含め検討が必要ですが、アニメーションなら面白くできるのではないかと思いました。このように考えると、実写とアニメーションでは向いているシチュエーションやテーマに違いがあるように思います。
また実写は俳優によって演技のアプローチが違って面白いです。私とディスカッションしながらキャラクターを作り込んでいく方もいれば、監督の指示に従って演技を設計するタイプの方もいました。アプローチが人それぞれなのは、俳優部に限りません。撮影部や照明部など、各セクションそれぞれの解釈によって作品が形作られていく過程が刺激的でした。インディペンデントなアニメーションは自分のイメージが他の人のフィルターを通ることなくダイレクトに出力されるので、そこも大きな違いです。
実写を経験したことでアニメーションにフィードバックされた部分はありますか。
岡田 あります。それまでは正面や真横からのカットが多く、セリフの面白さを際立たせるグラフィカルな画面設計を多用していたのですが、実写を経験してから作った『ハッピー⭐︎eyescream』(2025)では、アニメーションであってもキャラクターの演技やカメラアングルといった空間的な要素を今まで以上に意識するようになりました。そこは実写の経験が活きている部分だと思います。
直近の作品である『ハッピー⭐︎eyescream』では、NOTHING NEWがプロデュースを手がけています。
岡田 かなり自由に作らせてくれました。特に企画開発の部分では様々な意見をいただけて心強かったです。
『ハッピー⭐︎eyescream』は妹が兄の支配から逃れる過程をアイロニカルに描いた作品ですが、自分自身の経験がベースになっているんです。私は兄と仲が良く、制作にも協力してもらっています。ただその一方で、兄に影響を受け過ぎている自覚もありました。兄は陽気な人間で、恋人を紹介されたこともあります。そうした兄とのエピソードが作品にも反映されているんです。兄は身近な憧れの存在でしたが、私も大人になって、今はひとりの人間として兄を見られるようになりました。そうした変化を作品に落とし込んでいきました。ちなみに、『恋脳 Experiment』と、今取り組んでいる企画は、兄に共同脚本として参加してもらっています。
最後に、NeW NeWのサポートを受けて企画開発中の新作『Good Boy without Beard(仮)』についてもお聞かせください。
岡田 主人公の少年は、1989年生まれの設定です。この年は昭和天皇が亡くなり、大学の進学率で初めて女性が男性を上回りました。東京都議会選挙でも、多くの女性候補が当選しました。また、女性に対する男性の凶悪犯罪が増加した年でもあります。そうした背景から1989年は、日本において男性社会の崩壊が始まった年とも言われています。主人公はそうした時代背景を背負っているんです。
少年の父親は片田舎で獣医をしています。彼は町でも「強い男性」として知られていました。病院では毎日のように犬や猫の去勢手術が行われ、ペニスを失った動物たちの悲痛な鳴き声の中で少年は育ちます。その後、成長して自分も父親となった主人公が、自分の娘と愛犬の去勢手術のために久しぶりに実家に帰省するという導入になります。
新作のベースにあるのは、自分の父親の経験です。父はかつて事故で亡くなってしまった犬の死骸を片付けていたら、周りからバカにされたことがあったそうです。涙ながらにそのことを私に話してくれました。自分の父親が泣いているところを見たのはその一度きりなので、ずっと記憶に残っていました。父が人前で泣けなかったのは、男性である自分、夫である自分、父親である自分という様々な社会的なしがらみも関係していたのではないかと考えました。
これまでは女性視点の作品が多かったと思います。今回、男性の視点に着目した理由は?
岡田 もともと女性視点の作品に取り組んできましたが、それは私自身の性別が女性であることが関係しています。ただ男性視点から物語にもずっと関心はありました。『恋脳 Experiment』で家父長制にとらわれている男性を登場させたことで、あらためてそうしたテーマに向き合ってみたいと思ったんです。たまたま自分の兄が1989年生まれだったこともあり、女性よりも男性を主人公にすることで、よりテーマを掘り下げられるのではないかと考えました。
映像表現の面で取り組んでみたいことはありますか。
岡田 ありがたいことにNeW NeWのアドバイザーの皆さまからはストーリーテリングを評価いただき、集団制作の可能性についても助言をもらえました。自分としても今回チャレンジしたいのは多くの人の手を借りて作品を完成に導くことです。実写での経験も活かし、アニメーションの集団制作にも本格的に取り組んでみたいという想いがあります。また、技法の面でも従来のドローイングアニメーションだけでなく、様々なアプローチの可能性に開かれていると思うので、作品にとってよりよい選択ができるよう柔軟に取り組んでいきたいと考えています。