第二期公募枠アーティスト・工藤雅インタビュー
門脇健路

大前さんはSNS上で短いアニメーションを多数発表されていますが、アニメーション制作を始めたそもそものきっかけは?
大前奨平(以下、大前) イラストレーション中心の仕事をしていましたが、日々の情景や感情を静止画だけでは表しきれないもどかしさを感じるようになり、これを動かせたらもっと伝わるのではないかと思ったのがきっかけです。
とはいえ、最初はつくり方すら分からない状態でした。それでも独学で制作を続ける中で、テレビや舞台などの裏方仕事を手伝うアルバイトをしたり、CGアニメーションの制作会社で数年間仕事をさせていただいたりと、映像に触れる機会に恵まれました。そうした制作の現場から多くを学びながら、少しずつアニメーション制作の技術を身につけていきました。
映画や音楽が好きだったこともあって、どうしても映像と絡めて作品をつくりたいという思いから、SNSはあまり得意ではないのですが、ひとつの発表の場として、短い尺でもいいからまずは動かしてみようと作品の投稿を始めました。新聞の四コマ漫画のように、日々の中で楽しんでもらえたらという気持ちもあります。今では自分らしいやり方でストーリーを伝える方法も徐々につかめてきて、アニメーションが自分の表現としてしっくりくるようになりました。
もともと絵を描くのはお好きだったのでしょうか。
大前 そうですね。幼少期から絵を描くのは好きでした。言葉で何かを伝えることはあまり得意ではありませんでしたが、絵を通して周囲に認識してもらえたり、楽しんでもらえた記憶があります。喋らなくても通じ合えるという経験が、絵を描くことにより深くのめり込むきっかけになりました。
だからでしょうか、大前さんの作品は言葉では表現できない日常の繊細な機微を扱われていることが多いように感じます。
大前 そうですね。やはりベースにあるのは「日常」です。そこにある笑いやユーモア、自然の美しさや力強さが作品になっているのかなと思います。そして、音楽も自分の中では大切な要素です。身の回りの小さな出来事や自然の移ろいを観察しながら、そこに流れるリズムや気配をすくい取りたいと思っています。そこで描かれた身体や空間、音の重なりを通して、言葉にしにくい感情や空気感を描きつつ、その時々の時事や社会の空気もさりげなく織り込むようにしています。身の回りの世界を、少し違った角度から見つめ直せるような表現を探っています。
作品を制作するうえでの着想源は?
大前 日々の生活の中で、ふと見聞きした何気ない物事がきっかけで物語を思いつくことが多いです。具体的に言うと、四季の移り変わりや自然、街中の風景や街行く人のふとした仕草や表情などです。他には音楽だったり、生活音や自然の中で鳴っている音からインスピレーションを受けることもあります。また、その時々の時事や社会の空気感にも影響されます。
柔らかな作風の中にも社会的なメッセージが込められているのもまた、大前さんの作品の特徴と感じます。
大前 昨今は戦争や紛争などで世界情勢が不安定な状況が続き、また日本を含め世界各地で災害も相次いでおり、そうした出来事について考えさせられる場面が日常の中でも増えているように感じます。
戦争や大きな災害の被害を身近で直接体験していないため、そんな自分が作品のテーマとして戦争や災害を描いていいのだろうか、という葛藤は常にあります。
それでも、当事者として経験していない立場だからこそ描けるものもあるのではないか、そして出来事や記憶を語り継いでいくことにも意味があるのではないかと信じて、作品に向き合っています。
もともと映画がお好きだったとのことですが、どのような作品をご覧になっていたのでしょうか。
大前 日常にある悲喜劇を描いた作品や、古今東西のコメディアンから大きな影響を受けています。スラップスティックのような身体性の強い笑いから、社会性やドラマ性を含んだ喜劇まで幅広く惹かれてきました。特にチャップリンの作品が印象に残っています。スラップスティックの要素と深いドラマ性を兼ね備え、笑いと切実さが同時に存在しているところに魅力を感じています。あとはジョン・ランディス監督『ブルース・ブラザース』(1980)も好きです。
アニメーションでは、ディズニーの『ファンタジア』(1940)の映像と音楽の組み合わせの妙に、当時感動したのをよく覚えています。
映画以外で影響を受けた人物や作品はございますか。
大前 クレイジーキャッツやドリフターズは、音楽と喜劇が結びついているところがすごく魅力的だなと思っています。それから渥美清やロビン・ウィリアムズは言葉によって喜劇性を表現していて、とても好きです。
イラストレーションだと、ノーマン・ロックウェルの人物描写は本当に見事だなと思っています。一枚の絵の中で、登場人物の気持ちや状況が一瞬で伝わってくる巧みさに衝撃を受けました。小説ですと、山本周五郎『季節のない街』(1962)です。悲劇的な状況を書いているのに、どこか喜劇としても読める視点に魅力を感じました。それから、さくらももこが描く日常の中にある笑いにも影響を受けている気がします。
これらの作品に触れ、人間の営みに宿るユーモアや哀愁に対する眼差しが育っていき、それが自分の表現の根底に流れているように感じています。
大前さんのアニメーションにはボディーランゲージの豊かさがあると思うのですが、今のお話をうかがって、それはチャップリンやディズニーに由来するのかもしれないと思いました。
大前 そうですね。小さい頃に観て感銘を受けた作品たちの影響が色濃く残っていると思います。思い返すと大学時代にモーションキャプチャーを用いた人間の感情に関する研究を行っていたので、感情と身体表現のつながりに興味があるのかもしれません。
日常の中にあるユーモアという点では高畑勲監督『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)も少し連想させます。
大前 ありがとうございます。少し質問からはズレるかもしれませんが、色の合わせ方や載せ方、余白の使い方などがとても繊細に設計されていて、観ていて心地よいなと感じます。実際、高畑監督の『かぐや姫の物語』(2013)のメイキングを見たときに、色の扱い方や余白の考え方など、自分が試行錯誤しながらやっていたことと近い部分があるように感じて、嬉しかったのを覚えています。
大前さんが描く柔らかいビジュアルは、そのようにして生み出されていたのですね。ちなみに普段使用をされているソフトや画材は?
大前 基本的にはデジタルで作業しています。作画から着色はPhotoshop、編集作業はAfterEffectsを主に使用しています。ただ色に関しては、キャンバスにオイルパステルなどで色を乗せ、それを撮影してデジタルに取り込み、テクスチャーとして使うこともあります。
音響や音楽を担当されているジョアン・エスパーダ(João Espada)さんとはどのようなきっかけでつながりを得たのでしょうか。
大前 SNSがきっかけでした。彼はポルトガル在住なので遠隔でやり取りしています。新作にも関わってくれる予定です。彼の生み出すアコースティックな響きやニュアンスはもともと自分も好きな方向性なので、いつもお願いしています。
MV等の広告映像やイラストレーションなど、多岐にわたる活動をされています。それぞれの違いをどのように考えていますか。
大前 どれも根底ではつながっているように思いますが、媒体ごとに伝え方や伝える内容が少しずつ違う感覚があります。
短編アニメーションは主観的な視点から、自身が感じた情景や感情を描き、伝えるものだと思っています。クライアントワークですと、MVや広告映像は、クライアントやアーティストの意図に寄り添いながら、映像が加わることで生まれる相乗効果を通じて作品の魅力をより豊かに引き出すものです。イラストレーションは、紙面や文章に寄り添い、言葉と響き合うことで立ち上がる情景や感覚を描くものだと捉えています。
クライアントワークが表現の幅を広げるきっかけになったりすることもあるのでしょうか。
大前 そうですね。クライアントワークのおかげで表現の幅が自然と広がっているように感じます。自分ひとりで制作しているとどうしても表現が偏りがちですが、依頼内容に向き合う中で、新しい手法や見せ方を発見することも多いですね。
クライアントワークと自主制作のバランスは多くの作家が苦労されている部分かと思われます。そのあたり大前さんはいかがですか。
大前 仕事が来たら完全にそちらに集中してしまうタイプですね。ただ早めの納品を心がけ、チェックバックまでの時間を有効活用して自分の作品に取り組むようにしています。そういうサイクルを作ることで、自主制作のための時間を確保しています。もちろん、いつもそう上手くできるわけではないのですが(笑)。
ご自身のキャリアを振り返ってみて、転機となった作品はございますか。
大前 『或る⽇』(2021)です。今の自分につながる大きなきっかけになった作品です。新千歳空港国際アニメーション映画祭に入選したことも大きいです。それまで映画祭ではなかなか結果が出なかったこともあり、手探りで続けてきた表現を、ひとつの作品として受け止めてもらえたことは大きな励みになりました。
新千歳空港内に仮設されたディスプレイでループ上映していただいたのですが、空港が閉まる時間ギリギリまで自分の作品に見入ってくださっている男性がいて嬉しかったです。インターネットとは違ってダイレクトな反応が得られるのが映画祭の魅力だと思います。また、会場で作家の皆さんとアニメーションの話題で交流できたのも、これまでにない経験でした。
「NeW NeW」の採択企画として制作中の新作『萌しのころ』についてもお聞かせください。
大前 まだストーリーは練っている最中ですが、描きたいのは「家族」です。家族の時間、愛情、記憶などをユーモアを交え描けたらと思ってます。
これまでの作品よりも複雑な物語で、総じて大きくスケールアップしている印象を受けます。そのあたりの新しい挑戦についても、ぜひお聞かせいただけたらと思います。
大前 全体を通して1本の映画として楽しんでもらえる作品にしたいなと思っています。どうしても脚本執筆に苦手意識がありましたが、ひとつ筋の通った物語に取り組む良い機会と前向きに捉え、制作を進めています。
アドバイザーの方々からのフィードバックも作品を客観的に見つめ直す良い機会になっています。自分では意図していたことが、十分に伝わっていないと気づかされたり、別のアプローチや参考作品を提示していただくことで新しい発見が生まれることもあります。アドバイスに真摯に耳を傾けつつ、一方で表現の軸がぶれることのないよう、自分自身の考えをしっかり持って取り組んでいきたいと考えています。