第二期公募枠アーティスト・工藤雅インタビュー

2026年6月19日
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取材
田中大裕
構成
塚田優
『Sing by Ear』

まずはアニメーションにご興味を持たれたきっかけを教えてください。

⼯藤雅(以下、工藤) 幼いころビデオカメラで短い録画を繰り返せばアニメーションが作れることを発見しました。それで、そのころテレビで観ていた『ピングー』(1990–2006)のような映像を作りたいと思い立って、ペンギンに似た黄色い鳥をつくり、自分で動かしながら撮影をして遊んでいました。それが本当に面白くて。それが初めてのアニメーション制作でした。今振り返ると、その経験がアニメーションに興味を持つきっかけだったように思います。

大学ではアニメーションを専門的に学ばれたのでしょうか。

工藤 北海道教育大学で学びました。私は音楽もやっていたので、将来は音楽か美術の道に進みたいと思っていました。ただ大学受験までに進路を絞りきれず、いろいろな授業を履修できる北海道教育大学を選択しました。専攻は芸術学になります。

大学では、アニメーション作家の倉重哲二さんから主にアニメーションを、映像・美術作家の伊藤隆介さんからさまざまな映像について教えていただきました。特にズビグ・リプチンスキーの作品を授業で観せていただいたことは、私の映像作家としての在り方に大きな影響を与えたと思います。

また、おふたりの授業がきっかけでインディペンデントアニメーションや実験映画の世界を知り、授業外でもYouTubeやVimeoで検索して、いろいろな作品を観るようになりました。その中でも特に影響を受けたのは、ジョルジュ・シュヴィッツゲベルです。

大学卒業後にイメージフォーラム映像研究所(以下、映像研究所)に進まれていますが、大学時代に実験的なアニメーションや映画に出会い、もっと学びたいと思うようになった?

工藤 いえ、じつは大学卒業後は北海道で一度就職していて、すぐに通い始めたわけではないんです。

インターネットのおかげで地方で暮らしていても作品に触れること自体は容易になりましたが、実験的な作品を映画館で鑑賞する機会は、東京などの一部の都市に今もなお集中しています。動画共有サービスで実験映像を観ていると、映画館の暗闇に包まれてスクリーンで体験したいという気持ちが日々募っていきました。そんなときに倉重さんもかつて通われていた映像研究所の存在を思い出したんです。そこでならたくさんの実験映画を観られるし、作り手として多くのことを学べると考え、上京して通うことにしたんです。

映像研究所の卒業制作として自身初のアニメーション作品『差異と反復とコーヒー』(2020)を完成させます。工藤さんの作品はくり返しと変化を対比する円環構造が印象的ですが、そうした作風は『差異と反復とコーヒー』時点で、すでに確立されていますね。シュヴィッツゲベルやリプチンスキーの作品にも同様の構造が認められるように思われます。先行する作家から影響を受けつつも、ご自身の作風へと見事に昇華されていますね。

工藤 ありがとうございます。『差異と反復とコーヒー』は思わぬ反響があって、海外の映画祭でもたくさん上映していただきました。

ひとくちに「円環」といっても、カメラを360度PANして空間的な循環を作る方法と、最初と最後のシーンを重ねて時間的な循環を作る方法の2種類があります。自分はどちらも採用していますが、いずれにせよ「円環」には自分自身の実感が反映されています。私たちの日常──生の在り方は、くり返しのように見えて、じつは少しずつ違っており、微細な差異が現れては消えていく循環を成しています。それは普遍的な理だと思うんです。

それから自分の作風に関して言えば、映像研究所で教鞭を執られていた芹沢洋一郎さんが語ってくださった「主題と手法の一致」という考え方からも影響を受けています。具体例をあげると、家を主題とした『Tracing for Traces』を制作した際には、その家に残された痕跡を表現するために、フロッタージュによって凹凸を写し取る手法を採用しました。ほかには、かつて建築設計図に使われていたサイアノタイプ(青写真)という技術を用いて、始まりではなく終わり──つまり建物が壊され、その場所がなくなってしまうという記録=記憶をコンセプトにした『「堅牢なもの」のための青写真』(『蒸発書簡』内の一編)という作品をつくったこともあります。

ここまでで名前があがった作家以外にも影響を受けた作家はいますか。

工藤 実写ですが、アンドレイ・タルコフスキーやテオ・アンゲロプロスから影響を受けました。いずれも独特な時間の捉え方に惹かれます。それから、ユーリ・ノルシュテイン(Yuri Norstein)、イゴール・コヴァリョフ(Igor Kovalyov)、プリート・パルンウロ・ピッコフなど、旧社会主義圏のアニメーションを好んで観ていました。

工藤さんは現在、エストニア芸術アカデミー(以下、EKA)の修⼠課程に在籍されています。まさに今お名前があがったウロ・ピッコフはEKAで教壇に立たれていますが、そのあたりもご留学の決め手になったのでしょうか。

工藤 そうですね。ウロ・ピッコフさんはさまざまな技法や素材を駆使してアニメーションをつくられていて、学ぶべき点が多いように感じていました。

ただ、留学の直接的な動機としては、自分がまだ知らないアニメーションの世界にもっと触れてみたいと思ったこと、それから制作に集中する時間や環境が欲しかったというほうが大きいかもしれません。エストニアの風土は、部屋にこもって落ち着いて制作をするのに向いている環境だと思います。

主にどなたから指導を受けていますか。

工藤 ウロ・ピッコフさんに加え、主にアヌ゠アウラ・トゥッテルベルグさんから指導いただいています。

学生の顔ぶれはどのような感じなのでしょうか。

工藤 英語のコースなので国際的です。国籍や年齢もさまざまですし、技法も2Dアニメーション、パペットアニメーション、ハイブリッドなど多彩です。共通しているのは、さまざまな制作スタイルを実験したいという人が多いところかと思います。

授業の内容は?

工藤 幅広い技法を教えてくれます。今まで試してこなかった技法に挑戦する背中を押してくれる感じです。

また、アニメーション学科が持っている広いスタジオがあるのですが、その2階にNukufilmというエストニアの歴史あるストップモーションアニメーションのスタジオが入っていて、そこで働くプロフェッショナルの方々がワークショップをしてくれたりもします。EKAに入学するとパペットアニメーションをやりたくなると話には聞いていたのですが、本当にその通りでした(笑)。

制作にはどのようなツールを用いていますか。

工藤 基本的にノートパソコン、スキャナー、トレース台と、画材はアクリル絵具などです。道具を最小限にしているのは、場所を選ばずどこでも作業できるよう身軽にしておきたいからです。ただ、紙のテクスチャーをより活かすために、今後は一眼レフカメラで撮影することも検討しています。編集にはAfter EffectsとPremiere Proを使用しています。

これまで制作されてきた作品を振り返ってみて、特に手ごたえを感じている作品は?

工藤 台湾の張若涵さんという実験映像作家とコラボレーションした『蒸発書簡』(2023)です。この作品は私と張さんによる「往復映像書簡」で、東京の新宿眼科画廊と、台湾の鬧空間の2か所で展示をしました。初めと終わりを定めず、永遠にループする構造の作品になっています。展示という形態で発表しましたが、映像インスタレーションというよりも、あくまでも「映画」であることにこだわり、「映画」という形式を保ったまま、いかにホワイトキューブに拡張していけるかを追求しました。個人的にはその試みは上手くいったと感じていて、手ごたえがあります。

制作中の新作『Sing by Ear』は、「大阪・関西万博」の一環として実施された「日・EUアニメーション・レジデンス」(以下、「日・EUレジデンス」)に参加されたことがきっかけで生まれたそうですね。

工藤 そうですね。「日・EUレジデンス」は、ヨーロッパと日本からそれぞれ5名ずつアニメーション作家が招聘され、関西に滞在したり、アヌシー国際アニメーション映画祭でピッチを行うというプログラムでした。余談ですが、EKAで教鞭を執られているアニメーション作家のルチア・ムルズヤクさんと最初に出会ったのも「日・EUレジデンス」でした。ルチアさんも参加されていたんです。

新作に話を戻すと、「日・EUレジデンス」では滞在地域の伝統芸能を鑑賞する機会が提供されました。私はこれまで日本の伝統芸能を目にする機会があまりなかったのですごく新鮮で、伝統芸能を題材に作品をつくってみたいと思ったんです。

滞在中は文楽、浪曲、河内音頭など、さまざまな伝統芸能に触れましたが、お寺で体験した声明が特に印象深く、新作では声明を題材にしています。声明とは念仏から発展した仏教音楽なのですが、私が観たのは1000年以上も前に生まれたもので、お寺の中にある仏像を中心に回りながら経典を唱えるという内容でした。これが念仏踊りとなり、さらに盆踊りに発展したという説もあるそうです。これらに共通して受け継がれているのは、中心があり、それを取り囲むように円になって踊ったり、歌ったりするという構造です。その構造に着目して新作を制作しているところになります。

これまではセルフプロデュースだったかと思われますが、新作ではイメージフォーラムの⾨脇健路さんをプロデューサーに迎えています。第三者と伴走しながらの制作というのはいかがですか。

工藤 門脇さんや、「NeW NeW」のアドバイザー陣から意見をいただきながら作品を磨き上げていくのは新鮮な体験です。特に国際的な視点からの助言は、とても参考になります。

それから、質問からは少しズレてしまうかもしれませんが、経済的なサポートを受けながら作品に取り組む可能性を考えるようになったのも大きな変化でした。そうした発想はこれまでありませんでした。どうすればお金をかけずに新しくて面白い表現になるかを考える──それこそが商業映画に対するカウンターとして実験映画のあるべき姿なんだという固定観念があったんです。ですが、プロデューサーと協力しながら作品に取り組んだり、「NeW NeW」で助成金や補助金に関するレクチャーを受けたりする中で、そうした固定観念が解きほぐされていきました。なので新作には、すごくオープンな状態で向き合えていると感じています。


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