第二期公募枠アーティスト・榊原澄人インタビュー
寺嶋由紀

まずは簡単な自己紹介と、経営されているギャラリー・YUKI-SISについてご説明をお願いします。
寺嶋由起(以下、寺嶋) 東京・日本橋にあるYUKI-SISというギャラリーのオーナーをしております。榊原澄人さんの個展を過去に5回、YUKI-SISでやらせていただいていて、そのご縁で新作のプロデューサーを務めることになりました。
YUKI-SISは、私がデルタミラージュやギャラリー椿に勤めたのち、2012年に独立して開廊したギャラリーになります。日本や海外の現存作家を中心とした個展やグループ展の開催、国内外のアートフェアや催事への参加、ホテルなどに設置する作品の制作(コミッションワーク)のコーディネートなどが主な業務になります。絵画、写真、立体、アニメーションなど、扱う媒体に特に縛りはございません。
美術作品の売買が身近でない読者のために、ギャラリーの仕組みについても簡単に教えていただけますか。
寺嶋 日本のギャラリーには「レンタルギャラリー」と「コマーシャルギャラリー」があります。レンタルギャラリーは、作家に有料でスペースを貸し出すことで運営されています。一方でコマーシャルギャラリーは、さらに「プライマリー」(一次市場)と「セカンダリー」(二次市場)という販売形態があります。ギャラリーが主体的に展覧会を企画するという点は同じですが、プライマリーは、作家さんから作品を直接お預かりして販売し、その売上を按分する形で運営されています。対してセカンダリーは、オークションや業者間の交換会、お客さまから作品を仕入れて販売する業態になります。両方の業態に対応しているコマーシャルギャラリーもあれば、どちらかのみのギャラリーもあります。YUKI-SISはプライマリーのみになります。
YUKI-SISでは、榊原さんのほかに、どのような作家の作品を扱われているのでしょうか。
寺嶋 代表的なところですと、コンテンポラリーの木版作家・湯浅克俊さん、チタンを支持体にした平面作品を作られている柳田有希子さん、油彩の新藤杏子さん、木彫の大塚亨さん、アクリル彫刻の川﨑広平さん、平面作品ですと他にも小林知世さん、黒坂麻衣さん、宮岡俊夫さんなどがあげられるかと思います。
榊原さんの作品を扱うようになったきっかけは?
寺嶋 2012年に湯浅克俊さんの木版の展示を企画したのですが、そのときに湯浅さんからご紹介いただいたのが最初の出会いになります。おふたりはイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでご一緒だったそうです。その際、榊原さんから「文化庁メディア芸術祭」のアニメーション部門で大賞を受賞された『浮楼』(2005)のDVDをいただいたのですが、それが本当に素晴らしくて。それでお声がけさせていただきました。
寺嶋さんが思う、榊原さんの作品の魅力とは?
寺嶋 彼のアニメーションを初めて観たとき、「世界はこんなふうにつながっているのか」と感じました。絵巻物のようにゆっくりと展開する彼のアニメーションは、さまざまな出来事が同時多発的に起こり、そこに漂う悲しみや美しさ、残酷さを、一貫して俯瞰的に──どこか霊的ですらある静けさを持って世界を描いています。膨大な数のキャラクターがループする動きをくり返しながら大きな時間の流れを形づくり、全体としてひとつの美しい世界を構築している。100回以上観ている作品もありますが、観るたびに新しい発見があり、まったく飽きません。
また、榊原さんはアニメーションにとどまらず、平面、マンガ、実写映画、パペット公演、さらにはアイヌの儀式のようなパフォーマンスまで、さまざまな表現方法を試みている作家です。民俗学、神話、生物学、天文学、宗教など、幅広い関心と知識を有している方で、それが彼の作品が持つ複雑な魅力の源泉になっているのかもしれません。
榊原さんのように現代美術と映画にまたがってご活動されている作家や、あるいは束芋さんのようにアニメーションを用いて美術の領域でご活躍されている作家もいます。寺嶋さんは現代美術とアニメーションの関係をどのように考えていますか。
寺嶋 じつは私はアートの世界に足を踏み入れる前は実写映画の世界にいました。あがた森魚さんのアシスタントをしたり、函館山ロープウェイ映画祭(現・函館港イルミナシオン映画祭)の運営に携わったりしていたんです。映画に携わっていた頃の経験は、今の私の美意識を形づくる核になっています。その延長線上に今の仕事があって、美術、映画、音楽、文学など、媒体は違えどもそこに求める美しさの根本は変わらないという感覚があります。なので現代美術だから、アニメーションだからというように切断して考えたことはないかもしれません。もちろん業界のシステムは違うかもしれませんが、それは根本的な境界線にはなり得ないのではないでしょうか。榊原さんはYUKI-SISが初めて扱ったアニメーション作家になるわけですが、今振り返ってみても私は彼のアニメーションを美術と地続きなものとして最初から捉えていたように思います。
とはいえ、映像作品は販売がしづらかったりと、扱ううえで美術とは異なる手つきや考え方が求められる場面があるように思われますが……。
寺嶋 おっしゃるとおりでして、写真もそうなのですが、映像やアニメーションは日常的に身近なものになりすぎていて、「高いお金を払ってまで所有するもの」という意識が浸透していないんですよね……。例えば平面であれば数万円から数十万円をぽんと出せるのに、アニメーションに数万円を出すという人はなかなか現れない。それはギャラリーの立場からアニメーション作家をサポートしていくうえで常に考えていかなくてはならない課題だと感じています。
効果的な販売の仕方について答えが見つかっているわけではないのですが、以前、シアトルで開催しているアートフェアに参加した際、榊原さんの原画をミュートスコープ──フリップブックのような原始的な視覚玩具──にして展示したのですが、行列ができるほどの大盛況になりました。ですから、お客さまの興味を引く仕掛けが上手くいけば、美術の世界でアニメーション作家が注目を集める可能性は十分にあると思っています。
榊原さんは発想力がすごく豊かで、ミュートスコープも榊原さんのアイデアでした。なので、販売の仕方も含め、榊原さんと二人三脚でこれからも模索していきたいです。
アートフェアでのエピソードをお話しいただきましたが、アートフェアや芸術祭と、アニメーション映画祭では、作品を評価する基準に違いがあるように思われます。そのあたり、どのように感じられていますか。
寺嶋 私はどちらにも違った良さがあると思っています。アートフェアや芸術祭は気軽にブースに立ち寄れるので、人目に触れるという点では利があると感じています。反面、滞在時間もそのぶん短い傾向にあって、短編アニメーションのような映像作品を深く理解してもらうのは難しい面があるかもしれまん。とはいえ、気軽さゆえの偶然の出会いというのもあるでしょうから、それをきっかけに作品や作家のことを深く知ろうとしてくださるお客様もいると思います。一長一短ですね。
一方で映画祭は、拘束時間や経済的な負担を考えると参加するまでのハードルは(アートフェアや芸術祭と比較して)高いと思うのですが、「作品とじっくり向き合うぞ」という心構えで来てくださる観客が多いように感じています。また、映画館の暗闇の中で観ていただく環境というのは、作品と深くつながり、本質を理解するためにはもってこいだと思います。それから、これは今あげたことの結果として、映画祭の方が作品に対する理解が深まりやすいので、作家や、あるいは観客同士であっても、作品を介した横のつながりが生まれやすいような気がしています。
寺嶋さんの目から見て、アニメーションという形式ならではの魅力とは?
寺嶋 アニメーションは作家の頭の中にある世界をダイレクトに感じられる表現で、そこに私は魅力を感じています。観ていて次に何が起こるのか予想ができない緊張感と期待の間で、予想外に作家の世界に巻き込まれる感覚を抱きます。そのぶん反対に自分の好みと合わない作品というのもすぐにわかる気がします(笑)。
対して平面や立体、写真などは、理解するために観る側が能動的に作品に歩み寄っていく必要がある。自分と作品とのつながりをたぐり寄せる過程で、かけがえのない経験と感動が生まれると思うのです。そこが否応なく鑑賞者を巻き込んでいくアニメーションとは違う点かなと個人的には考えています。
とはいえ、アニメーションと美術に共通している部分もあります。それは、良い作品というのは鑑賞しているうちに、まるで科学反応のようなことが脳内で起こり、作品とは直接関係がないことまで考えてしまったり、個人的な感覚や記憶とつながったりすることで、ひだのように複雑な感動を生み出す点です。そういう体験こそが芸術に触れる醍醐味だと、私は思っています。
寺嶋さんは、これまでもギャラリストの立場から美術作品が生まれるプロセスに携わられてきたと思われますが、他方で映画のプロデュースは初めてとうかがっています。『子どもたちの霊歌』の制作が本格化するのはこれからかと思われますが、今後どのように映画製作に取り組んでいきたいですか。
寺嶋 まず大前提として、榊原さんの新作が完成するまでしっかり伴走したいです。そのうえで、ただ制作に寄り添うだけではなく、完成後もアートフェアや美術館での展示や、平面作品としての展開など、作品をお客さまに届けるところまで責任を持ってサポートしていけたらと考えています。ダメもとでいろいろなアイデアを試してみたいと思っています。業界の常識を知らないからこそできるチャレンジもあると思うので。私は美術の世界でそういう経験をたくさんしてきましたから。
私はプロデューサーとして、人と人をつなげる「糊」のような存在でありたいと思っています。榊原さんという作家の魅力をわかってくれる人をひとりでも多く増やし、その人たちのもとに作品を届ける。そうすることが結果的に、榊原さんの次のチャンスにもつながってくると思いますので。榊原さんの次回作は、360度スクリーンを用いた3部作の最後の作品になる予定です。彼の作品の素晴らしさをより多くの人に伝えられるように、私もがんばります。